(書評)七四

著者:神家正成



自衛隊内での犯罪捜査及び被疑者の逮捕を行う部署・中央警務隊。甲斐和美三等陸尉は、隊長・大曽根よりの命を受け、富士駐屯地へと向かう。そこで起きた隊員の自殺は、実は何者かによる殺人だ。そんな告発があったため……。一方、元自衛隊員であるソフトウェア会社社長の坂本は、突如、取引相手からの契約解除を言い渡されてしまう。理由は、坂本が納入したプログラムのバグが原因で、一〇式戦車事故が多発したからだという。不可解な理由に疑問を抱いた坂本は、その調査に乗り出して……
結構、ボリューミーな作品だなぁ、というのがまず思ったこと。著者が元自衛官ということもあるんだけど、かなり自衛隊組織における専門用語とか、立場などの説明に尺が取られている。勿論、それがなければ私のような素人は「?」となってしまうのだけど。
物語は、冒頭に書いたように2つの視点で展開する。死亡した赤川一佐が自殺なのかを探る甲斐。そして、自分のプログラムに本当に問題があったのかを探る坂本。坂本にとって、赤川、さらに富士駐屯地に勤務する三佐・柳は同じ釜の飯を食った同期。しかし、その中には高木という同期の死、さらに「また同期を殺した」という言葉が去来する。一方の甲斐は、捜査の最中に、自らが自衛官を志した原点。阪神大震災の際に自分を助けてくれた者が坂本ではないか、という思いを抱いていく……
という感じで、2つの視点ではあるのだけど、しばしば、過去の出来事についての回想が混じるかなり多元的な描かれ方がしている。しっかりとその辺りが交通整理されているので、今はどこの時系列? とか、そういうのはないのだけど、どこへ向かうのだろう? という疑問と、甲斐が行き詰るたびに現れる告発者からのメッセージ(勿論、それは誰なのか? そして、信じてよいのか?)を原動力に読み勧めることが出来た。
こういうと何だけど、私個人としては、当初、密室状態の戦車での死。それが殺人としたどうやって? というハウダニットの方に興味を持っていて、同期への想いとかっていうのはいらないかな? と思っていた。
けど、読み終わってみると、そちらこそがメインで描きたかったのだろう、と感じる。同期の仲間。勿論、信頼している。そうでなければ共に戦えない。けれども、防衛大学校への進学枠などを巡ってのイザコザもある。自分の夢もある。でも、仲間との絆も……。凄く丁寧に描かれているし、どういうものかは想像がつく。でも、多分、そういう関係、絆……そういうものは、私が完全に理解することは出来ないと思う。でも、その入り口を感じた。
粗筋に書かれている自衛隊の暗部。一種の陰謀とか、その辺りはもうちょっと掘り下げても良かったかな? とは思うものの、上に書いた同期という関係の絆を垣間見ることが出来たのが最大の収穫だったと思う。

No.4207

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