(書評)失踪者

著者:下村敦史



ありえない。あいつは死んだはずだ。2016年、ペルー・ブランカ山群。山岳カメラマンの真山は、シウラ・グラン峰で、10年前にクレバスに置き去りにしてしまった親友・樋口の遺体と再会する。しかし、その遺体は明らかに、その時よりも年老いていた。樋口は生きていたのか? しかし、それならばなぜ、連絡をしなかったのか? そして、なぜ同じ場所で死んだのか……
著者の山を題材にした作品というと『生還者』があるのだけど、その時は、兄は殺された? そして、その原因となった雪崩からの生還者の真逆の証言の意味は? という謎を巡るミステリ作品。対して、本作には、樋口は生きていたのか? そして、なぜ、同じ場所で死んだのか? という謎はある。しかし、読み終えると謎解きよりも、山に生きること、その中での友情というものを描いたものだとわかる。
物語は、3つの時系列が入り乱れながら展開する。
2016年、つまり、今現在、真山が生きている時間でのもの。当然、樋口は生きていたのか? という疑惑からその消息を、という形の物語。それから、2006年。つまり、樋口が死ぬ前後の物語。かつて、単独でK2制覇するほどの実力者だった樋口は、榊という若手のカメラマンをしている。しかも、いつも途中でダウンする「情けない」カメラマンとして。そして、1990年代。大学の山岳部で、真山が樋口に出会い、友情を育み、そして……という顛末。
2016年では「親友」と呼ぶ真山。しかし、2006年では、実力は認めながらも距離を置いた関係。そして、過去の出来事……。
著者の下村氏の作品だけでなく、他の作家の「山」を扱った作品などでも描かれているけど、ただでさえ命の危険が付きまとう世界。それは、実力だけでなく、運も登頂には必要となる。でも、実力と運だけでもダメ。装備を整え、渡航し、山に入る。何ヶ月もの時間が掛かるそれには莫大な費用もかかり、支える存在も必要と成る。学生時代に出会い、樋口の実力にほれ込んだ真山。樋口を見届けたいと、その行動についていく中で育まれた友情。しかし、就職、そして、その就職先の事情と言う中で道を分かつことにならざるを得なかった過去。そして、その後の不可解な活動の意味……
「山男ほど勝手な存在はいない」
こんな言い分をどっかで聴いた事がある(どこだかは忘れた) そもそも、単独での行動を好む樋口って勝手な存在ではある。しかも、その後も、だ……
でも、そんな存在だからこそ、孤高という風にも見えるし、だからこそ、真山に示した態度は真の友情の証拠だ、とも思う。自分自身は冬の雪山どころか、雪国にだった行きたくなく(逆に南国にも行きたくない。ついでに言えば、仕事にも行きたくない)、家でいつもゴロゴロしていたい人間で、真山や樋口の、山に対する想いは一生理解できないと思う。
でも、そんな私でも、真山の樋口に憧れる思い。そして、樋口がしっかりと真山を友と感じていたのだ。そういう二人の関係性、絆は強く強く感じられた。

No.4220

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