(書評)コクーン

著者:葉真中顕



1995年3月に起きた丸の内乱射事件。宗教団体、シンラ智慧の会の教祖の命を受け、6人の信徒が起こした前代未聞のテロ事件。その事件から十数年、その事件に関わった人々は……
なんというか、不思議な感覚が残る読後感だった。
物語は、「蝶夢」という、戦中生まれの一人の女性の人生を振り返る独白と、シンラ事件と無関係ではない人々の出来事を描いた短編という形で構成される。
日本の歴史に残るような大事件。些細な夫婦喧嘩と、そのイライラ解消のために子供をつれてやってきた丸の内で事件に遭遇。息子を喪い、それが引き金になり夫もまた……という女性を描いた『ファクトリー』。売春婦の子として生まれ、蔑まれてきた少年時代、関西から引っ越してきたマンザイと出会った男を描く『シークレット・ベース』。成績は良いが、内向的だった兄はシンラに入り、事件に関わった……。その過去があとを引く女性を描いた『サブマージド』。そして、一生懸命に仕事に打ち込んだ男。しかし、妻は、いつの間にか、シンラにはまってしまって……という『パラダイス・ロスト』。
こういうと何だけど、私は著者のデビュー2作については、謎解きの鮮やかさとかよりも、作品のテーマとなった社会問題とかの丁寧な描写を評価していた。
その観点で言うと、本作のそれぞれの主人公の思い、というのは非常にリアリティのあるものだと思う。子を喪った女性の1編目。深夜にアダルトグッズを作る工場でパートしている、というところで、状況の嫌な感じをかもし出しているし、その最中に描かれる過去の描写もそういう感じなのだろう、と感じさせる。同様の感想は、他でも。立場は違えど、事件に関わっている人はいろいろと傷ついて……。そういう部分でのリアリティは抜群。
ただ……1つの物語としてのまとまりとしてはどうか?
それぞれが、傷ついて、というのが示されての結末。シンラの事件は、当然、現実にあった某団体による事件をモチーフにしつつ、それが別物になっているのは明白。そして、それぞれの章で描かれるちょっとした違和感。それは……
ある意味、SF作品的なオチというのはわかるが……でも、すっきりとはしないなぁ……。それが狙いなのだろうが。

No.4227

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