(書評)あなたのいない記憶

著者:辻堂ゆめ



進学した大学で再会した優希と淳之介。子供のころ、同じ絵画教室に通っていた二人は、当時の話題で盛り上がるが一つだけ食い違っている箇所が。それは、「タケシ」という人物のこと。優希にとってのタケシとは、大事にしている絵本の主人公のこと。一方、淳之介にとっては有名なスポーツ選手。食い違う箇所に疑問を抱いた二人は、絵画教室の先輩である京香に連絡を取るが、彼女が言うにはどちらも間違い。現在のタケシは引きこもりだという……
個人的に、記憶とか、人間の認知機能に関する書籍をいくつか読んだことがある。その中で印象に残ったのは、人間の記憶っていうのは、少なくとも客観的な事実をそれに頼ってしまうときわめて危ういものになってしまう、ということ。本作のテーマというのも、そんな記憶の危うさに基づいている。
冒頭に書いたように、同じ絵画教室に通っていた二人は、なぜかタケシという人物についての記憶が全く違うものになっていた。しかも、現状を知る京香によればどちらも間違いだという。優希が絵本の主人公だと思っていたのは、絵画教室でもらった絵本に登場していたから。しかし、調べてみれば、そもそも、そんな絵本自体が実在していない。誰かが、普通の絵本のように装って作ったものであった。一方の淳之介もまた、スポーツ選手本人から手紙をもらったことがきっかけ。でも、これもまた……
探偵役となる晴川が、どうしてそんな偽の記憶を持つようになったのか? のメカニズムについて解説していくのだけど、このあたり、認知機能の偏りとかについてかみ砕いて解説されていて、「情報の面白さ」ではあるものの興味深く読むことができた。
そして、そういう何者かの意思が介在しているとなると、今度、問題となるのは誰が、何のために? という点。
本物のタケシが引きこもっている理由。大学を中退した理由。その背景に隠されたもの……
こういうと何だけど、この理由とか、そういうところそのものは、決して目新しいとは思えない。こういう動機で、という作品は結構、読んだことがあり、想定内といえばそうなる。でも、帯にある有栖川有栖氏のコメントじゃないけど、「謎を解いてどうするのか?」という部分を新鮮に感じた。犯罪とかであれば、謎を解いて事件が解決とか、プラスに転化することもあるだろう。しかし、本作の場合、謎を解いたところで何か解決するわけではない。いや、それどころか、そこまでやった本人の努力を無駄にしてしまうだけ。ならば……
話全体を見通すと、色々なところで「上手く行き過ぎ」という部分があるのは確か(例えば、上に大学で優希と淳之介が再会した、とあるわけだけど、学部も違う大学で、偶然、何年も音信不通だった二人が再会し、気づけるか? からして上手く行き過ぎだろう) そのあたりがもっとうまく処理できれば、化ける気がするんだけどなぁ……

No.4250


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