(書評)どこかでベートーヴェン

著者:中山七里



数年前に開校したばかりの加茂北高校の音楽科に一人の転校生がやってきた。他を圧倒するような圧倒的な実力を持ったその転校生・岬洋介は、クラスの中で様々な思いを振りまきつつ、9月に行われる文化祭へ向けての練習が本格化する。だが、そんなときに起きた豪雨による土砂崩れ災害。校内に取り残されたクラスメイトを守るため、決死の覚悟で脱出した岬だったが、学校外でクラスの問題児・岩倉の他殺体が発見されたことで、一転、容疑者になってしまって……
岬洋介シリーズ第4作。ただ、上に書いた文章でもわかるように、岬洋介の高校時代を描いた作品であり、作中の時系列では最も古い作品と言える。
物語は、洋介のクラスメイトとなった亮の視点で展開。音楽科といっても、実際のところ、普通科には学力的に入れなかった者が入っているだけのクラス。そして、その事実を覆い隠すように「音楽をやっているんだ!」と言い聞かせるだけでプライドを保っている生徒ばかり。亮もそんな存在。だから、ただ音楽だけを考え、圧倒的な実力を持っている洋介はそんな彼らの状況を大きく変えてしまう。しかし、亮は隣の席ということもあり、やりとりをすることも多く、音楽以外についてはまるで子供ような洋介の純粋さにも惹かれていく。そして、そんな中で起きた殺人事件。容疑者とみられた洋介に対し、掌を返すクラスメイトの中で、洋介は怒りを覚えて……
このあたりの亮の心の動きはすごく共感できるところだし、過去の話でも見え隠れしていた父親との葛藤など、洋介の掘り下げ、という意味でもしっかりと意味を成している。最後にある仕掛けもしっかりと機能。この辺りは流石。
ただ……正直なところ、クラスメイトの心情にイマイチ共感できないんだよな。いや、先書いたような状況なので、事件前、愛憎入り乱れた状況で洋介を見ていたのはわかる。ただ、殺された石倉のように、洋介に対して暴力をふるったりとか、そういう描写があるのならばいいのだけど、事件前はほとんど描写がないのでイマイチ理解できない。土砂崩れが起きている中で、必死に助けを呼びに行った、という感謝とかなく、洋介は犯人に違いない、という決めつけで攻撃していくのはなぁ……・せめて、もう少し、他のクラスメイトの掘り下げがほしかった。
このシリーズ、結構、好きだったのだけど、本作についてはちょっとイマイチと感じる。

No.4254


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  •  どこかでベートーヴェン/中山 七里
  • 中山七里さんの岬洋介シリーズ第4作、「どこかでベートーヴェン」を読み終えました。 今回は今までと趣向を変えて、岬洋介がまだ高校生の頃のお話でした。物語の語り手となるのは、洋介の級友の鷹村亮です。岐阜県にある加茂北高校の音楽科に、岬洋介が転校してきました。しかし洋介の転校をきっかけに、音楽科の抱えている暗部が次第に表面化してきます。そして洋介が、他の生徒にはできない卓越したピアノ演奏をし...
  • 2017.01.06 (Fri) 12:54 | 日々の記録