(書評)人生を変えたいなら、住む街を変えよう あなたにいちばん似合う街

著者:三浦展



昨年末、夕刊タブロイド紙に本書の書評記事が載っていた。その中で書かれていたのは、「男性で年収200万円以下の人たちの住みたい街ナンバーワンは、秋葉原。2位以下は池袋、新宿などの副都心が続き、5位には千葉の幕張、9位に御茶ノ水・神保町がランクインしている」「ここから分かるのは、年収の低い男性は会社の近くか、あるいは漫画やアニメに近い街が好まれるということ。秋葉原はもちろん、コミックマーケットが開催される幕張、漫画やサブカル雑誌を探しやすい御茶ノ水・神保町が入っている点からもそれが見て取れる。年収が低いがゆえに、現実の女性よりも二次元に逃避したがるためではないかと本書。」というもの。このことについて、いろいろな意見はあったのだが、私の流儀は、その元ネタとなるものを読んで判断せねばならない、と思っている。なので、本書を読んだ次第である。
まず、私自身は、著者の書籍を結構、読み込んでいる人間だと思う。著者の代表作である『ファスト風土化する日本』『下流社会』などは勿論、その合間合間に刊行した書籍もかなり読んでいるつもりだ。そして、その多くについて、Amazonで1点評価をしている。まさに、私にとってデタラメ統計の権威である。本書もその評価についてはゆるぎない。
というか、この書のもととなった調査なのだが、そもそも、何を調べようとしたのだろうか? という疑問を抱く。
この元となった調査は、ネット調査であるという。この時点でサンプリングが適切であるかどうかは疑わしい。とは言え、とりあえず、そこは置いておこう。
この調査では、20代~40代の男女、合計1500名に、「住みたい街」を回答してもらった。そして、その回答者のプロフィールと住みたい街をクロス集計して、「このような人は、こういう場所に住みたがる」という内容である。しかし、読んでいると、いくつもの「?」が浮かぶのである。
まず、「住みたい街」がやたらと細かい上に、どうしてその組み合わせなのかよくわからない点。以前に読んだ著者の書、『東京は郊外から消えていく!』とやり方は似ているのだが、この時は、自治体単位を基本として首都圏(東京都と千葉、神奈川、埼玉)を29のブロックにわけて「この町は発展すると思うか?」「衰退すると思うか?」などとやる書だった(なのになぜか、いざ、著者の分析なるものになると「吉祥寺では」だの、「東急線沿線では」だのというそれを無視した話になっているという疑問はあったが)
そんな批判にこたえたのか、今回は首都圏を100以上にわけて質問。ズバリ言えば、駅単位である。けれども、細かすぎる上に、それをいくつか組み合わせるので「どこなの?」という感じになってくる。例えば、きっかけとして語った「秋葉原」であるが、実は「秋葉原」単独ではない。「秋葉原、水道橋、飯田橋、春日、白山」となる。かなり広いのである。JR線でいうと、総武線の秋葉原から飯田橋は4駅分である。一方で、荻窪と西荻窪は全く別扱いだったりする。
そして、この200万円未満の男性がここを選んだ理由について、「年収の低い男性は現実の女性をゲットする自信がなく、漫画、アニメに逃避し、漫画、アニメの豊富な街に住みたがるのです」という。そうなのかな? そもそもの問題として、この調査、理由については何も調べていない。こういうと何だけど、「どの街に住みたいですか?」と聞いたときに「その理由は何?」と聞けば、その理由は簡単に明らかになるのではないだろうか? 「通勤に便利」「趣味に便利」「子育てに向いている」……とか、選択肢を用意すれば簡単に調べられるはずなのに、なぜか理由については著者の偏見だけで語られてしまう。
もう一つ、疑問があるとすれば、回答者の属性を考えるときに、大事な部分を聞いていないのではないか? という点である。それは「職業」。本書の中で、回答者をその属性別でクロス集計すると書いたわけだが、その集計の際、男女別とか、年齢別、現在の住所などを聞いている。そして、後半の女性の好み云々になると、「コーヒーや紅茶を豆や葉からいれる人」とか、「ワインをよく飲む人」だの、やけにニッチな属性まで聞いている。ところが、「職業」という観点を聞いていない。これだって、職業を「公務員」「正規の会社員」「非正規の会社員」「自営業」「学生」などから選べ、とやれば比較的、簡単にカテゴライズできるのであるまいか? しかし、なぜか、その質問をしていない。もしくは、調べたけど、著者の結論に都合が悪かったので無視をしたのかもしれないが。
そして、その部分で考えたときに「年収200万円未満」が秋葉原~飯田橋、エリアを好むのって当然じゃない? と思えるのだ。だって、この地域って、都内でも有数の学生街だから。このエリア、明治大学、日本大学、専修大学、東洋大学、法政大学、中央大学、東京理科大学、二松学舎大学……とこれでもかと大学のキャンパスが並んでいる。厳密にはこの地域じゃないけどすぐ近く、を考えると東京大学とか、上智大学とかもある。学生で年収200万円以上ってなかなかないだろう、と考えると年収の低い男性が「秋葉原~飯田橋」エリアを選んだのは、そのカテゴリの回答者は学生が多いからではないか、ということも可能だと思う。まぁ、これも根拠がないのだが、「現実の女性をゲットできる自信がなくて、逃避している」などよりはマシな分析だと自分では思う。
と、これまで通り「なんだかなぁ」という分析ばかりであった。

そのうえで、私は著者についてこれまでは、分析も調査もめちゃくちゃだけど、ちゃんと結果をしっかりと示している、という点は評価をしていた。つまり、著者の結論にとって都合の悪いであろう部分も載っており、示された結果そのものに着目すると統計学的にはただの誤差だ、とかがわかる、なんていうことが多かった。都合の悪いことも示すというのは、これはこれで誠実だと思うのだ。
しかし、本書についてはその結果がほとんど示されていない。そのためそのような再分析ができないようになっているのだ。これは大きなマイナスとしたい。

最後に、上のデータについて公開されていないことが多い、とも関係するのだが、標本数1500というのは決して少ない数ではない。しかし、男性で、年収200万円未満というように細かくカテゴライズすると相当に人数が少なくなってくるのは間違いない。そのうえで、1%、2%の違いで「こうだ」というけど、単なる誤差ということも十分にあり得る、と指摘しておこう(冒頭の「秋葉原~飯田橋」は9.7%であり、2位の池袋は9.1%と、0.6%の違いしかない)

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