(書評)あしたの君へ

著者:柚月裕子



家庭裁判所調査官の仕事。それは、家庭裁判所に持ち込まれる事案……すなわち、少年事件や離婚調停といったものの背景を調査し、その解決に導くことである。見習い家庭裁判所調査官補の望月大地は、事件を起こした少年少女との面接、離婚調停を行うようになって……
すごく奇麗な話。裁判所、司法についての作品というと、著者はすでに傑作シリーズといってもいいだろう「佐方シリーズ」がある。勿論、その佐方シリーズでも、真相を見つけ出して、という中で佐方の人情味を感じる話は沢山ある。でも、どちらかというとひっくり返しの衝撃というのが強く感じられる。対して、本作は、何よりも人情味というのを前面に押し出した作品だなぁ、と感じる。
全5編の連作短編なのだけど、前半2編は少年事件について、主人公・大地が地元で、という1編を挟んで後半2編は離婚調停というのがテーマ。
まず1編目『背負う者』。主人公の大地にとって、初めての仕事となるのは、援助交際を持ち掛け、相手の男の財布を持ち去ったとして捕まった少女。「遊ぶ金が欲しかった」と言うのみで、何も語ろうとしない彼女の家庭環境を調べるのだが……。遊ぶ金が欲しかった、というけど、そもそも高校に通っておらず、まじめにコンビニで働くのみ。家庭というのも憚られる状況で望月が知った犯行に及んだ理由。それだけでも、十分に重い話なのだけど、そんな望月の報告を聞いたうえで、先輩がとった処置……
「彼女の将来にとってどちらが良いのか?」「彼女の現状をよくするには?」
元刑務所職員であった浜井浩一氏の書などで、「刑務所に入れることが却って、社会復帰を困難にさせることもある」という指摘があるのだけど、その逆。敢えて少年院などに入れ、現状から切り離す必要性がある、というケースもある。そんな判断の難しさを感じさせる結末が印象的。
離婚調停を題材にした5編目『責める者』。離婚調停を進める夫婦。双方ともに、小学生の息子の親権を巡り争う。離婚はするが、学区内で暮らすので転校はなく、仕事も融通が利くので問題がないという母親。一方、金銭的にも、祖父母もおり、環境としては自分が良いという父親。その中で、肝心の子供は……?
正直なところ、話の筋でいうと、ひっくり返しを狙いすぎたのが、出来過ぎ感を覚えた部分がないではない。ただ、作中で先輩が指摘するように、子供は、大人が思うほど、物事が見えていないわけではない。人間関係のネットワークだってあって、色々な情報だって入ってくる。まして、ある程度、年齢を重ねて周囲の気持ちをおもんばかることができるようになれば、ただ、自分の意思を言うだけでは通らないことも覚える。当たり前といえば、当たり前なのだけど、そんなことに気づかされる。
最初に「奇麗な話」と書いたように、正直、皆、いい話過ぎるっていう意見はあると思う。実際には、どうしようもない夫婦がどろどろの攻防を繰り広げるとか、そういうのだって絶対にあるはず。そういうのも見てみたい気もするけど……
そうなったら、読み終わってよかったな、という感想は浮かび上がらないだろうから、これで良いのだろう(笑)

No.4261


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