(書評)遠い唇

著者:北村薫



7編の作品を収録した短編集。
ものすごく個人的な偏見に過ぎないのだけど、著者というのは「真面目」という印象がある。まぁ、それが一種の「固さ」的な印象になり、全作品にまで手が伸びていないのが実情。そのため、本作に収録された『ビスケット』辺りは前提となる作品を読んでおらず、他の読者のように「あの作品の……」という感想を抱けなかったのが残念。
そんな、ある意味、中途半端な読者の感想。
まずは表題作。学生時代、姉のように慕っていた先輩から届いたハガキ。そこには、不可思議なアルファベットの羅列が……
わずか15ページ余りの短編。その中に、先に述べたような文学作品の引用などを取り入れての暗号解読。よくもまぁ、こんなに簡単に解けるなぁ、というのは思うのだけど(笑)、でも、その暗号の意味は……。「レバタラはありえない」 それはわかっていること。でも、もし、若き日にこの暗号を解けていたらどうなっていただろうか? そんな思いを抱かざるを得ない後味が残る。
同じような解読がテーマが2編目の『しりとり』。こちらも、かなり複雑な暗号といえる。そして、物語の設定も表題作と似ている。けれども、「もし、あの頃に……」という表題作とは異なり、こちらは今、この時に知ったからこそ……という温かさを覚える読後感。1編目、2編目と立て続けにこの作品を並べたのは、その違いを鮮明にしたかったのかな? ということを思う。
さて、作中で一番、ツボにはまったのは『解釈』。宇宙人が、『吾輩は猫である』『走れメロス』『蛇を踏む』を読み、その内容を検討する、というもの。
先に著者の印象を「真面目」と書いたのだけど、こういう作品も書くのか、とビックリ。でも、よくよく考えてみると、この宇宙人たちは、「真面目に」読んでいるというのがわかる。
小説というのは、小説の中での「お約束」がある。例えば一人称視点と三人称視点の違い。読者はそれをあらかじめ知っているからこそ、違和感なく読むことができる。しかし、それがなかったら?
『走れメロス』において、太宰治はメロスについて行って、その行動を記録している存在、として読む。色々と困難が待ち構えているのに手伝いすらしない太宰は悪い奴だ! また、疲労困憊になっているメロスに対し、平然とついていく太宰のタフさは何なのだ? ……なるほどね(笑) 結構、文学論とかとしても面白いのかもしれない。
210頁あまりと短い作品集だけど、いろいろと内容は盛りだくさんの一冊だと思う。

No.4266


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  •  遠い唇/北村 薫
  • 北村薫さんの短編集、「遠い唇」を読み終えました。 この本には、表題作である「遠い唇」から始まり、「しりとり」「パトラッシュ」「解釈」「続・二銭銅貨」「ゴースト」「ビスケット」の7作が収録されています。久々の北村作品だったせいか、年末の忙しい時期にほっこりできる内容で、とても心が落ち着きました。 「遠い唇」は、主人公が学生時代を回想しつつ、そこで渡された暗号を解読するお話です。ほろ...
  • 2017.01.18 (Wed) 20:52 | 日々の記録