(書評)神の子

著者:薬丸岳







戸籍すら持たないものの、天才的な頭脳を持ち、振り込め詐欺グループの頭脳役として室井という男の下で働いてきた町田博史。しかし、室井の組織に正式加入するためのテストとして用意されたのは、自らを慕う知的障害を持った青年・稔を殺すこと。室井を裏切り、監視役を殺して少年院に入った町田だが、室井は町田のことを諦めず……
物語は、プロローグとして、冒頭に書いたような室井の下から、町田(プロローグ段階では名前すらない)が裏切って……というところまで。第1章で、少年院時代の出来事。第2章で少年院を退院し、大学生となり、同じ学部の面々と会社を立ち上げるまで。そして、第3章で会社の立ち上げから5年。再び彼らに室井の手が迫り真相へ……という構成を取っている。
著者の作品って大雑把にいうと、『友罪』や『Aではない君と』などのように、ガッツリと社会問題などをテーマにした作品と、『アノニマスコール』のようにエンタメ色を強く出した作品に二分できるように思う。そして、上下巻、合わせて実に1100頁超という大作である本作は後者に位置する作品といえるだろう。まぁ、無戸籍の子供の問題、なんていうのは話題になったことがある(それこそ、単行本で出た2014年くらいはそうだろう) ただ、その部分についてはそれほどメインになっているわけではなく、あくまでも中心人物となる町田。そして、その町田を追う室井という部分が主になっているため。
普段だったら、物語の展開とかを紹介しつつ感想を書いていくのだけど、今回はそれはせず、この作品のテーマは何だったのかな? と思ったことを描くことにする。
無戸籍で、悲惨な生活を送る一方で、少年院に入って最初に「自分の方が頭がいい」と言い放った町田について中止する法務教官の内藤。少年院を出た町田を受け入れた町工場の女社長・前原。その娘で、町田に良い思いを抱いていない楓。紆余曲折はありつつ、町田と共に会社を興すことになる為井たち……。さらに、室井の命令によって町田を取り戻すために動いた雨宮。そして、少年院時代から、町田が常に口走るミノル……。
最終的なテーマということになると、「仲間」ということになるんだろうけど、それをものすごいスケールで描いた、ということになるのかな? 少年院を出たのちも決して周囲と打ち解けている、とは言い難い町田。しかし、いろいろと言われつつ、前原の会社の危機を救い、為井らの会社を軌道に乗せるための手伝いをし……もう、この時点である意味、ただのツンデレさん状態(笑) そして、そんな大学生編ともいうべき2章から、その後の3章になり、今度は内藤、楓ら、周囲が町田を救うようになっていって……。最終的な室井との対決、というのも、その積み重ねの上で、ということになるのだろう。
逆に言えば、室井は、確かに裏社会での組織力を持っていた。しかしながら、ある意味、冷酷に、必要かどうかを見極め、そこから外れれば切り捨てる。そして、第3章、真実が分かっていたときは組織そのものを維持できず、ただの意地という状況になっていた。文字通り、執念だけで町田を求める存在になっていた。その違いを描きたかったのだろうというのを強く思う。そして、それには成功していると思う。
ただ、そうはいっても、結局、室井は何をしたかったのかイマイチよくわからないままだったな、とも思う。世界そのものを変える、とか、そのためにどういうことをしていたのか、とかの一端は見える。見えるし、町田を手に入れるためにかなり大掛かりな仕掛けをたくさん仕掛けている。その割に詰めが甘く、しかも、最終的には妄執に進んでしまっただけ、のような感じになっているだけに……。後半、だんだんと室井とは? という謎がメインになっているだけに、ちょっとそこが残念にも感じられた。
とは言え、これだけの分量でありながら、どんどん読み進められるリーダビリティの高さは特筆もの。分量分の満足感はある作品といえる。

No.4268&4269


にほんブログ村

スポンサーサイト

COMMENT 0