(書評)月とライカと吸血姫

著者:牧野圭祐



世界を分かった大戦の終結より十数年。世界の覇権を争う二つの超大国は、激しい宇宙開発競争を続けていた。そんな中、東の超大国・ツィルニトラ共和国は、世界初の有人宇宙飛行を計画を発令する。世界への影響力を保つために失敗は許されない。しかし、普通の人間では……。そこで共和国がとったのは、人間の代わりに吸血種を用いる「ノスフェラトゥ計画」。閉鎖都市で訓練に励む宇宙飛行士候補生のレフは、その吸血種・イリナの監視役を命じられるのだが……
何か、私のTwitterまわりでやたらと高評価を得ている本作。そもそも、自分が本作を購入したのも、そんな評判から、なのだけど。
冒頭で書いたように、物語の設定とすれば、第2次大戦後、ちょうど、1960年代冒頭の東西冷戦が激しかった時代。それもキューバ危機とかの起き、宇宙開発という意味ではガガーリンが人類初の有人宇宙飛行に成功したあたりの時代をモデルにしているのだろう。
そして、そんな時代、国をモデルにしている、というのが端々から伺える。そもそも、宇宙開発にしても成功事例を事後に世界に発信することはあっても、実験の最中に、ということはない国。勿論、宇宙開発のための都市は極秘事項であり、仮の名前も同じ名前を冠した街から遠く離れた場所。そして、実験中の事故により、大きな被害が出ても、そのこと自体は国外はおろか、国内にすら伏せられている。まぁ、ソ連が崩壊して30年近く経っているから多少、現実感に乏しい感はあるものの、北朝鮮とかを考えれば、何となく理解できるところがあるはず。
そして、そんな中でのレフの立ち位置。超大国同士の争いでリードするためには絶対に成功させねばならない宇宙飛行。しかし、人間では……ということで選ばれたのが吸血種。不老不死だとか、ニンニクに弱いとか、いろいろといわれるその種。しかし、実際、監視役として共同生活するようになってわかったのは、食事などに多少の違いはあるものの、それ以外は自分と大して変わらないということ。いや、高所恐怖症だったりとか、ただの年下の少女としか思えない。しかし、国としてはあくまでも彼女は「人間ではない実験体」という立ち位置。しかも、直線に起きた大きな事故。こんな状況で飛ばすなら、むしろ、中止にと思うレフだが、イリナは……
イリナは実質的に人間と同じなのに、そうは認めない国。そんなイリナに感情移入していくレフ。しかし、自ら宇宙へ、という意思は固いイリナ。そんなイリナの決意にこたえようと誓うレフ……。この作品は、宇宙開発、宇宙飛行というのが題材になっているわけだけど、その背景にあるのは、ある種の人種差別の問題であり、同時に当事者のそんな差別などを超えた絆なのだろう、と思う。勿論、これを実際の人種差別とか、そういうところで描いたら物凄く重い話になってしまうのだろうけど、作品の世界設定とか、そういうのを鑑みるとそれを思わざるを得なかった。
とは言え、そんな情勢をぶっ飛ばしての宇宙への思いが成就する終盤。
最後のページの、彼女が成し遂げたことは、すべて秘匿されてしまうかもしれない。けれども……
「彼女こそが、史上初の宇宙飛行士だ」
の一言に集約されていると思う。

No.4270


にほんブログ村



スポンサーサイト

COMMENT 0