(書評)イアリー 見えない顔

著者:前川裕



「ヤダです。奥様は御在宅でしょうか?」 妻を亡くし、その葬儀が終わったばかりの大学教授・広川の家を訪れた女。インターフォンに映る顔に見覚えはなく、外に出たときには姿が見えなくなっていた。まもなく、近所に「八多」という家を見つけるものの、対応に出た女は、訪問者とは別人。さらに、数日後、その主人が亡くなり、その家には現在、女性など住んでいない、という。一方、広川の勤める大学では総長選挙を目前に控えており、広川もまた、その選挙戦に巻き込まれていく……
面白そうな題材はいろいろとあったのだけど、それを組み合わせた結果、何を主題にしたかったのかよくわからなくなってしまったような気がする。
物語は、2つのことを部分を主題として展開する。1つは、広川が住む住宅街で起こる不気味な出来事。もう1つが、広川自身が巻き込まれることとなる大学の総長選挙。それぞれは興味深く読むことができたのだけど、双方を組み合わせ、それらがつながった結果……衝撃というより、無理矢理辻褄合わせがされただけ、と感じられてしまったのが残念。
主人公・広川の住む住宅街で起きる出来事は、かなり不気味。冒頭に書いたように、ある日、広川の前に現れた「ヤダ」という女性。近所に、同じ苗字の人がいるので、その人かと思えば別人。しかも、そのとき、対応に現れた女性は本来、いないはずの人間。さらに、ゴミ捨て場から発見された身元不明遺体に、失踪してしまった向かいの家の住人……。出会えばあいさつ程度はする。けれども、深い付き合いがあるわけではないご近所さん。そこで何が起きているのか? 主題としては、著者のデビュー作である『クリーピー』と同じようなものであるけど、不気味さ、という意味では負けていない。
一方、大学の総長選挙。学部単位での対立。その中でのやりとり。当初の候補者がスキャンダルで出馬できなくなり、それでも、という担ぎ出し。学部の意地、しかし……の状況から、思わぬ伏兵。しかし、それもまた……。正直なところ、こちらのエピソードはかなりドタバタという印象。流石に、ここまでやられたら……っていうのがあるだろう。ただ、その中の構図が実は……というひっくり返しは悪くない。
でも……
それを組み合わせるとどうにもこじつけ感が……
この物語の陰にある団体の存在があるのだけど、ここまで巨大な組織で、これだけのことをしていたら流石に目立たない、ってことはないだろう。しかも、イマイチ、その団体の目的がよくわからない。まぁ、その中心人物の性格が、ある意味、不安定っていうのは、現実のそういう存在を見てもあり得るんだろうけど……
個人的には、二つの要素、それぞれが魅力的に思えるだけに、それぞれ別の物語として作って欲しかったな、というのを思わずにはいられない。

No.4273


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