(書評)脇坂副署長の長い一日

著者:真保裕一



近隣の町村が合併してできた賀江出市。早朝、そこを管轄する賀江出警察署の副署長・脇坂のもとへ一本の連絡が入る。それは、署員である若い巡査が自損事故を起こした挙句に逃亡したらしい、というもの。折しも今日は、地元出身のアイドルが一日署長を務めるとして、内外からの耳目が集まる日。そんな日に不祥事? 事故について調べ始める脇坂だったが……
タイトル、そして、アメコミ風の表紙。次々と発生するトラブル。そこだけ見ると、ドタバタなコメディ系作品のように見えるのだけど、読んでいるとやっぱり著者の作品らしいな、という感じ。それも、デビューした当初のテイストを持った。
最初に、脇坂のプロフィールを知っていると入りやすいと思うので、そこから。元々、脇坂は刑事畑を歩み、現場で活躍してきた人物。しかし、ある時、捜査資料を紛失しかける、ということがあり現場を外され、そして、その後の警察内の派閥人事のあおりで現職へ。現在は一線を退いているものの、現場に戻りたい、という思いを強く抱いている存在。
物語の冒頭は、上に書いた通り。インフルエンザで休んでいる、というはずの巡査がなぜかスクーターで事故を起こした。しかも、逃亡。褒められた話ではないが、しかし、自損事故ならそれほど問題ではない。なぜ、逃亡したのか? そして、彼には少年犯罪の過去を持つ青年と付き合いがある。一体、何をしたのか? 膨らむ疑惑。さらに、家庭では息子が暴力事件に巻き込まれ、妻の行動もちぐはぐ。娘からはそのことを問う電話が次々と。波乱含みの一日が始まり、アイドルのイベントが開始されたと思ったら、今度はそのアイドルが薬を使っているというタレコミがあって……
謎の行動をとる巡査に、アイドルの身辺調査。さらに家庭の問題。さらに、その中で浮かび上がってくる9年前の火災事故。そして、脇坂が現場を外れるきっかけとなった事件へ……。ドタバタとした騒動がだんだんと一本の線へと繋がっていき、やがて警察内の不正へ……。後半の、警察組織内での不正へ、という辺りの流れは初期の、「小役人シリーズ」なんて言われていたころのノリそのもの。まぁ、どちらかというと脇坂は、様々な騒動に巻き込まれる中でその裏を知っていって……で能動的に動いた、とは言い難いのだけど、周辺の熱い思いを受け止めて、それを最終的に一本にしたのは脇坂の情熱そのものと言えるだろう。
無理矢理に気になる個所を探すなら、黒幕側があまりにも考えすぎ、という気がしないでもない。どっちかというと、考え過ぎて馬脚を現した感じがないでもないし。
ただ、ここ最近読んだ著者の作品では一番好き。

No,4289


にほんブログ村


スポンサーサイト

COMMENT 0