(書評)シャーロック・ホームズの十字架

著者:似鳥鶏



世界経済を左右する力を持つホームズ遺伝子群。在野に潜む遺伝子保有者を選別・拉致するため、不可能犯罪を創作する「機関」。彼らの暗躍を阻止するために、妹の七海と共に、天野直人は彼らと対峙する! 強酸性の湖に建てられた十字架。密室灯台の中で転落死した男。500Mの距離を一瞬でゼロにした謎。「機関」の創作した謎の正体は?
ということでシリーズ第2作。今回も連作短編形式で3編収録。
前作は、事件に巻き込まれた直人と七海が、それを解決するのだけど、その事件の背景に……というのが明らかになり、その中で、直人がどうふるまうべきなのか葛藤する……といういうな話だったのだけど、今回はその世界観を前提に、対機関として直人たちが戦う形での物語。勿論、その中で本当にいいのか? とか、そういう悩みはあるのだけど……ただ、基本的にどうふるまうのか、という覚悟ができたうえでの話となっている。
そんな直人の様子をまず感じさせるのが1編目の『強酸性湖で泳ぐ』。流行したパズルアプリの成績優秀者を集めたテレビ企画で、温泉地に集まった人々。ところが、深夜、そのスタッフの一人が殺害され、湖にたてられた十字架に貼り付けに。陸から十字架までは20M近い距離があり、その湖は火山活動によってできた強酸性のため、入ればその場で皮膚が焼け爛れてしまう。一体、誰がどのようにして……?
と書いたところで、「あれ?」と思うように、実はこのエピソードの語り部は直人ではなく、企画にした大学院生。目の前で事件が起きて、どうしよう。そんなときに、直人たちが現れて……となる。なんというか、終盤にさっと現れて謎を解いていく直人たち。ある意味、ヒーローのようであり、このエピソードで作品の世界観、そして、直人の決意がすでにはっきりと理解できる、という構成をしっかり作り出しているのだな、というのを強く感じた。
一方で、そんな直人が、自分の立ち位置を理解しつつも悩むのが3編目の『象になる罪』。3分という短時間しかないのに、500M離れた場所に遺体を置いてみなと合流していたと思われる犯人。どう、その状況を作り出したのか? というのが謎になるのだけど、それと並行して直人のもとへ伝えられたのは直人らが暮らしていた施設の子供が誘拐され、「手を引け」というメッセージ。自分のせいで、無関係のはずの子供が危機に。そちらも気になる。しかし、機関の暗躍を阻止せねばならない、というのもわかる。そんな悩みを抱えることに……。さらに、その後にも1つ……
でも、こうやって話を読み終えると、直人の雇い主である御子柴さんって、すっげー優秀で良い人だな、ってことだったり(笑) 言葉はキツいのだけど、常に直人たちに注意を払っていて、そして、直人すら気づかないようにサポートを入れている。本当、すごくいい人に拾われたのだな、としか思えない。
……と、作品の世界観を中心にここまで書いてきたのだけど、トリックの方にも言及しておくと……
かつてメフィスト賞が牽引していたころの、新本格ミステリの匂い、もっと言うなら、デビューからしばらくの間の北山猛邦氏の作品が浮かんだ。まぁ、端的に言えば、見事な物理トリック。そして、ある意味、そのためだけにそんなことをするのか! というような。そんなことをするための手間の方とか、その間に見つかったら一巻の終わり、っていうリスクを無視しての。ただ、ここまでやってくれると逆に楽しい、というのは、そういう作品に沢山触れてきたからだろうか? ついでに言うと、作品冒頭にパズル問題とかを入れた、というのもこの雰囲気に読者が入り込みやすくするためのテクニックだったのかな? というのを後になって思った。

No.4305


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