(書評)86 エイティシックス

著者:安里アサト



隣接する「帝国」の無人兵器による進行を受けるサンマグノリア共和国。共和国もまた、無人兵器の開発に成功し、人的被害のない戦いを繰り広げてきた。……表向きには……。「エイティシックス」。共和国85区から外れた、「存在しない86区」の人々は、「人間ではない」とし、だからこそ、彼らの犠牲は「戦死者」と数えられることがなかった……。弱冠16歳にして少佐にまで上り詰めた才媛レーナは、アンダーテイカーと呼ばれる少年・シン率いる精鋭部隊・スピアヘッド隊を後方から指揮するハンドラーに就任するのだが……
第23回電撃小説大賞・大賞受賞作。
最初に告白しておくと、もともと、この作品、あまり読む気はなかったのだけど、Twitter等、周囲の評価が高くてじゃあ読んでみよう、というかなり消極的な理由で手に取った次第。結論から言えば、面白かったんだけどね。ただ、冒頭からルビを多く振った専門用語(?)があって入り込みづらいな、と感じた部分があったのは確か。ただ、ある程度、読み進めたところからは気にせず一気に、という感じ。
物語とすると、冒頭に書いたように若きエリート軍人のレーナが、後方からスピアヘッド隊のハンドラーに就任。彼女は、共和国の人々から「人間」扱いされていないエイティシックスの面々に人間として接しようとする。しかし……
こういうと何だけど、この作品の上手さは、その緩急のつけ方だと思う。スピアヘッド隊を「人間」扱いしようとするレーナ。しかし、その中にはある種、上から目線の驕りが存在している。それが、序盤でまず噴出する。そして、その反省から一度は雪解けをしたかと思うが、しかし、今度はシンの特殊能力というか、彼が抱える呪いというか、そういうものを目の当たりにする。それすらをも乗り越えたと思いきや、今度は共和国そのものの腐りきった現実が……
よく理想主義とか、そういう言い方がされるのだけど、その意味でいうとレーナはこの上ない理想主義者だ、ということは可能だと思う。それこそ、軍人としてこれで良いの? と思うくらいに。でも、その辺りについて、レーナの母親の戦時中なのに戦争なんて知らない、というような描写など、人々が全く外部を知らない状況が明らかにされているため、「これでも見えている」というバランスになっているなど、設定をしっかりと練りこんでいるのがよくわかる。その上でのレーナの成長と、しかし、どんどん破滅的な状況へと突き進んでいくスピアヘッド隊。普通は主人公が成長することで状況が改善されるのだけど、そうではない真逆の方向へ、という流れでどんどん物語に吸い込まれていった。
スピアヘッド隊の置かれた状況というのは、進めば地獄、退いても地獄、という状況なわけだけどその中で彼らが選んだ道。それは、人間としていきたい、ということそのもの。そして、それは立場は違えどもレーナもまた……。それがエピローグの話へとつながるのだろう。物語としての完成度は非常に高く、読んで納得の受賞作だった。
ただこれ、続編はなくていいと思う。これで完結しているだけに、下手に続編を作るとただの蛇足になりそうなので……

No.4306


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