(書評)告白の余白

著者:下村敦史



「生前贈与をしてほしい」 数年ぶりに戻った双子の兄は、そう切り出した。そして、生前分与を受け取った直後に自殺した。「2月末までに清水京子という女性が来たら土地を譲渡してほしい」という遺書を残して。清水京子とは何者なのか? そもそも、なぜ兄は死を選んだのか? 英二はその理由を知るため、その女性の住む京都へ向かうのだが……
デビュー以来、堅実に作品を発表し続けており、佳作も多くある著者。しかし、今回の作品は……という感じ。
物語の舞台は京都。「ぶぶ漬け」とか「一見さんお断り」で例えられるように、独特の言い回し、風習、伝統……そういうものがある京都。その京都の風習とか、そういうものを題材にした作品。正直、私は京都は高校の修学旅行で1度行ったきりで、ほとんどその辺りを実感することはなかったし、葵祭とかそういうのもいつやっているのかもよくわかっていない私。なので、そういうものについての蘊蓄とか、そういうものは楽しんで読むことができた。というか、毎週、一緒にWEBラジオをやっている仲間である873(京都育ち)が、「京都の奴って、本当嫌な奴だぞ」とかよく言っているんだけど、確かにこの遠回しな物言いとかを日常的にやっていたら、っていうのはわかる気がする。
でもって、その本音をオブラート(っていうか、分厚い衣くらいありそう)で包んだ会話などに翻弄され、二転三転されていくっていう話の流れは確かに上手いと思う。文字通り、何が本音なのか? 何が正しいのかわからない迷路の中に放り込まれたも同じなのだから。
……ただ……
物語として、無理がありすぎる。ここまで、敢えて書かなかったのだけど、主人公の英二は京都へと乗り込む。そして、京都に乗り込んだ英二は、兄の英一と勘違いされたので、兄に成りすまして情報を引き出して真相を知ろうとする。……いや、無理だろ! ってなるでしょ?(笑) まぁ、一卵性双生児ってことで、容姿はそっくりかもしれない(ただ、英二は農家なので、そうではなかった兄と比べて日焼けしているとか、そういう違いがありそうな気がするが) でも、前提もわからない会話にてきとーに回答しているのにバレないとかはさすがに無理矢理すぎ。一応、終盤にフォローがあるとはいえ。
また、そのうえで、英二は何をしているの? というのもあったりはする。高知から単身乗り込んで、そうしたら、その独特の言い回しなどに戸惑った。それは良い。でも、作中の時間って、数日どころか、数か月単位に及んでいる。仮にも現代を舞台にした作品なのだから、ネットとか、もっと言うなら図書館などを使ってでも、そういう風習とかを調べるチャンスはいくらでもあるはず。でも、それすらしていない。それで、後にビックリって……
こういうと何だけど、時代背景を変えて、例えば、戦前とか、江戸時代とか、そういうのならばこの設定でも無理はなかったと思う。でも、現代でこの展開は無理矢理すぎる。著者のテクニックはわかるが、それでも埋めきれなかった。そう思わざるを得ない。

No.4307


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