(書評)希望荘

著者:宮部みゆき



家族、そして、仕事を失った杉村三郎は、東京都北区に探偵事務所を創立する。そんな事務所へ舞い込んだ事件4編を描く作品集。
一応、連作短編ってことで良いのかな? 各編ともに100頁くらいあるわけだけど。一つ言えることは、これまで3作のシリーズは長編なのだけど、その長さゆえに冗長と感じられる部分が多かった分、このくらいの分量になった方がテンポが良くて読みやすい、ということだろうか。ただ、本作の場合、過去3編の物語の中身がそれぞれ関わってきているのも確かだが。
老人ホームで亡くなった父が、死を目前にしたときに言ったという「人を殺したことがある」という言葉。それは本当なのか? という表題作。
その時代に、その人が住んでいたエリアで未解決の事件があったのか? そのようなオーソドックスなアプローチで調査を進めていくわけだが、むしろ主眼は、三郎と調査対象たる人物の類似点。若き日に、金持ちのお嬢さんと婿入での結婚し、長男を儲けたものの妻の浮気であえなく離婚。家を出たのち、依頼主と男は30年間にわたって音信不通。事件はその間……
依頼主から見て、決して粗野とか、そういうことはなく、尊敬できる父親だった男。しかし、過去が過去。浮気をされ、家を追い出された傷跡はあったはず。それが爆発していてもおかしくはない。そして、同じような状況にある三郎にとっても……。真相自体はほっとできるものなのだけど、現在進行形で当時の男に近い状況にある三郎の心情がなかなかに痛い。
作中の時系列が2010年くらいと、初出が2014年~15年の割に古い時代だな、という感想を持っていたのだけど、その理由が明らかになる4編目『二重身』。2011年3月11日に起きた東日本大震災、三郎の事務所も被災した中、やってきたのは母の付き合っていた男性が行方不明になった、という少女。
ある意味、金持ちの道楽としてやっていた雑貨店。残ったバイトの証言によれば、東北の方へ買い付けに行くというのが最後だという。東北と言っても広く、もちろん、まだ生きている可能性だってある。しかし……
個人的に感じた2点。
まず、未曽有の災害があったからこそ見えなくなってしまう真実。覆い隠されてしまうこと。思い込み。この辺りのテーマの持ってき方の上手さ。おそらく犯人にとってもこんなことになるとは思っていなかったのだろう。でも、チャンスがあったらやってしまう。そんな人間の弱さというか、ずる賢さというか、そういうのを感じる、ということ。
そして、その犯人と被害者の意識の食い違い。比較的近い距離にいた両者。しかし、片方はそもそも歴然とした違いがあるとみていて、片方は自分でも、と思っていた。この辺り、三郎の事情と近い……とは言えないものの、しかし、今多家と三郎という立場の違いのようなところにもかかっていたんじゃないかな、と思う。
先に書いたように、短編集になったことでテンポが良くなりシリーズの中では一番、読みやすく感じた。ただ、過去作のエピソードが特に三郎の心情として関わってくるだけに、これ単独でお勧めしづらい、というのも確かなんだよな……

No.4332


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