(書評)オリンポスの郵便ポスト

著者:藻野多摩夫



人類が火星への入植をはじめて200年余り。しかし、度重なる災害と反乱により、都市が寸断され、入植の希望も消え去っていた。そのような火星で長距離郵便配達員として働くエリスは、機械の身体を持つレイバーのクロを「オリンポスの郵便ポスト」へと届けてほしいという依頼を受ける。火星で最も天国に近い場所にあるという、そこを目指し、二人の長い旅が始まる。
第23回電撃小説大賞選考委員奨励賞受賞作。
あまり物語をジャンルで区別する気はないのだけど……この旅モノとでもいうのかな? 「郵便ポスト」「郵便配達員」というような言葉は出ているけど、現在の日本の郵便局で働いている人たちのような話ではないのは確か。
冒頭に書いたようにオリンポスの郵便ポストを目指して二人が旅をするわけだけど、その舞台設定が秀逸。荒廃し、町ごとの連絡というのも途絶えた世界。故に町ごとに雰囲気は異なり、かつて、内乱を起こした者たちが住まう街もある。そこでは、すでにただ、地球への執念を燃やす者が。地球と連絡路であった町では、その設備を細々と修復する者が。そんないろいろな街を旅する中で、少しずつエリスとクロ自身について掘り下げられ、そして、二人の関係も移ろっていく。
こういうと何だけど、エリスがただ、運ぶだけの存在であったとしても十分に面白い話になっていたと思う。けれども、配達員に選ばれたエリス自身が背負っているもの。さらに、結果的に荒廃することとなってしまった火星にまだ希望があった時代の物語。そういうものが、しっかりと回収されていく。エリスとクロ。二人の長い長い旅と、火星そのものの歴史。両方が積み重なっていく感じ。それ故に、物語終盤、エリスとクロの旅が終わろうとするところでの寂寥感が半端なかった。一度はお別れとなったところで、エリスが……っていうシーン。その後の最後の時……。泣きそうになった。
派手さはないけれども、奇麗にまとまっており、読後感がすごく良かった。
すごくいい話を読んだな。そんな感じが残る。

No.4344


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