(書評)「日本スゴイ」のディストピア 戦時下自画自賛の系譜

著者:早川タダノリ



「日本はスゴイ!」 近年、そんなバラエティ番組があふれている。「八紘一宇」や「日本人の誇り」を煽る政治家まで現れている。実は、そっくりな時代がかつてあった。1931年、満州事変から第2次大戦の時代である。日本人の「勤勉さ」「礼儀正しさ」といったものをキーワードにその時代の言説について考察する。
まず最初に述べておくと、結構、著者の政治的な心情とでもいうべきものが出ているな、と感じるところがある。勿論、現在の政府が「郷土愛」とか、そういうのを前面に出したりしているなどしているし、そういう活動と政治に関連性があることは間違いない。ただ、政府批判とかの言動が多いので、ちょっと鬱陶しく感じたところがあるのは事実。
「人間は猿から進化する中で毛が少なくなってきた。そして、日本人と西洋人では日本人の方が薄い。だから、日本人は進化しているんだ」系のトンデモ言説などを紹介しているので、そういう系の文章を紹介し、それを笑うのか……と思っていたのだけど、それがだんだんと「日本スゴイ」という言説がどのような形で流布されたのか? そして、どういう形で利用されたのか? というように移ろっていったように感じる。
例えば、労働などについての問題。生産性向上のため、そして、安く製品を作り上げるために「勤労」「奉仕」といったものが美徳である、という価値観で覆い隠した。それこそ、経営者とか政府の側の人間が、「給料を求めて働くのは悪いことだ」なんていう言い方をし、さらに、(現在の法律上では)労働者の当然の権利である有給休暇にしても、「一生懸命に働いたものへの栄誉として与える」なんていう発想を出すことで、奉仕させる形へと転換させる。現在では、そういう文言上はなくなったものの、この当時の発想が残り、サービス残業の蔓延とかへとつながったのではないか? というのは、なるほどと思わされる、
また、学校教育などにしてもそうで、奉仕とか、そういう形で教育をした結果、教師というのが学校の中でミニ天皇のようにふるまう形になった。っていうのも、本書の中で記されているのだけど、こういうのも、例えば、イジメ問題などで犯罪行為が行われているのにも関わらず、司法権限を一切持たない教師が全てを仕切る治外法権の一因になっているのではないか? という感じがしてくる。そういう示唆を色々と与えてくれる書ではあった。
まぁ、もっと軽い感じの本だと思っていたのでカラーの違いに戸惑ったところがないわけではない。先に書いたように、ちょっと政治色が鬱陶しいと思うところもある。ただ、それでも色々と思うところができたのは収穫。

No.4353


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