(書評)木足の猿

著者:戸南浩平



明治9年、維新間もない横浜の街。そこでは、外国人が立て続けに何者かに殺害され、生首が晒される、という事件が起きていた。江戸時代末期、殺された友の仇を討つため、脱藩して諸国を回っていた片足の男・奥井は、玄蔵という男から、その事件に仇討の相手が関わっていることを知らされる。そして、事件に関わることになるのだが……
第20回日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作。
かなり手堅い、という印象。物語は、冒頭に書いたように、友の仇が、外国人連続殺人に関わっている、という情報を手にした奥井が、関係者のもとを訪れ、話を聞き、そして……という形。作品の紹介では、奥井が居合いの達人、ということになっているのだけど、その辺りが発揮されるシーンはあまりない。とりあえずの概要としてはそんな感じだろうか。
と、こういう風に言うと、あまり面白くないように感じられるかもしれないけど、そういう手堅い展開を構成しながら、しっかりとその中身を作り上げてきたな、という風に感じる。
長らく続いた江戸幕府が倒れ、新たな時代、明治時代が始まった。それまでの身分制度は廃止され、四民平等という言葉が広まる。しかし、その実は、と言えば、それまで続いていた武士は職を失い、生活の糧を喪った。幕府のため、と戦って死んだ男たちと、残され困窮した士族の女たち。新たな官僚機構は、四民平等という建前とは裏腹に、維新の中心勢力であった薩長に支配されている。さらに、清国を破り迫る西欧列強の脅威に常にさらされている。その一方で、幕府の制度の傷跡も残りつつある……。そんな時代背景、そして、その中でのそれぞれの生きざまというのがしっかりと描かれているのが印象的。激動の時代、というものの痕跡だから、ということはるのだろうけど……それでも、その時代を生きた人間にとっては……となるのだろうな……
特に、士族の娘だったお陽の生きざまとかは魅力的だった。
折角、奥井が居合いの達人という設定があるのだから、その辺りを活かすシーンがもうちょっとあっても、と思ったんだけど、分量の制限とかもあるだろうし、これは仕方がないのかな? 十分に面白い作品に仕上がっていると思う。
ああ……ただ、ラストシーンでの、あまりにものベッタベタなシーンは……さすがにどーかと思う(笑)

No.4358


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