(書評)ストロベリーライフ

著者:荻原浩



独立は果たしたものの、仕事が途切れがちになったグラフィックデザイナーの恵介。そんなとき、実家から掛かってきたのは2年前、喧嘩別れしたままの父が倒れた、との一報。久しぶりの実家で見たのは、収穫を間もなくに控えた父の作っているイチゴ。父の見舞いと共に、その出荷待ちのイチゴの世話をすることになる恵介だったが……
著者の直木賞受賞後第1作になる長編作品。まず最初に、文体とかが著者のデビュー間もない頃の作品っぽいな、と感じた。『オロロ畑でつかまえて』とか、『誘拐ラプソディー』とか、ユーモア路線が強かった頃の。
実際、作品の雰囲気としてはそのユーモア路線の方向性を含んでいる。冒頭で書いたような内容なのでシリアスと言えばシリアスなのだけど、そもそも父親と恵介の喧嘩の理由が、双方の勘違いからのすれ違いだし、恵介の父の見舞いに行ったところ、姉たちに会って見知らぬ大人に子供が怯えてしまうとか、「ありがち」ではあるのだけど、本筋に関係ないところで深刻さを敢えて削ぐような描写が多く入り、重くなり過ぎないように描かれている、というのを感じる。
まぁ、物語の流れとしては、父の病により、仕方なく、手伝いをすることになる恵介。しかし、いざ、やってみるととても手のかかるものであり、同時に、父と共に長年、農業をする母の手際の良さに驚くことばかり。そんな中、都会育ちの妻は、農業を継ぐことに反対し、夫婦仲も……。それでも、何とか食らいついていく中で……という、ある意味、こういう作品の王道ともいうべき内容。そういうのも含めて、先に書いた重くなり過ぎないようにした配慮というのがうまく奏功していると感じる。
ただ、私自身、農村出身者として思うのは、明るい雰囲気の中にも、結構、「あるある」的なところが描かれている、と感じる点。例えば、仕方なしに手伝いをするようになった恵介に、姉の一人が言うのが……。「継がないって言って出て行ったのに、継ぐなんていうのは虫が良すぎるんじゃないか?」というようなことを言うシーン。いや、その部分だけをとれば姉の言葉が正しいように聞こえるのだけど、その姉自身だって農家を捨てていった身。自分だっていう資格はないはずなのに、結局、その土地をどうするのか、とか、そういうところで小さな争いの芽が出ている、というわけ。「農業を継ぎたくはないけど、でも、自分の家の財産は」 他にも、都会から変な幻想を抱いて農業を始める存在とか、どうして、結局、地元民ばかりになるのか、とか嫌な話だけど、田舎でありがちなものも結構、しっかりと描かれていたのが印象的。
物語は、ハッピーエンドで終わるのだけど、個人的な好み、というか、要望を言えば、もうちょっと恵介の妻・美月の心情描写があってもよかったんじゃないか、と思う。恵介の田舎へ移住するとか、そういうものに反対していたのが、終盤、あまりにもコロッとひっくり返ってしまった気がするので。
明るい雰囲気で読むことが出来、でも、結構、田舎の事情とかそういうものもしっかりと描かれて、田舎育ちとしては首肯した。そんな作品。

No.4366


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