(書評)片翼の折鶴

著者:浅ノ宮遼



臨床医師として活躍しつつ、類稀な洞察力で謎を解く西丸。そんな西丸の周辺で起きる謎を描いた連作短編集。全5編を収録。
一般には「医療ミステリ」と呼ばれるジャンルの本作。医療ミステリと言っても、結構、色々な幅があって、例えば、久坂部羊氏の作品のように、犯罪とかを描きつつ、医療についての社会的な問題を描くものがある。一方で、知念実希人氏の「天久鷹央」シリーズのように殺人などの真相を医療的な知識をもって解決する作品もある。そんな中、本書は、医学的な謎を、文字通り、医学的な知識をもって解決する、というような感じになっている。
1編目『血の行方』。階段で意識を失い、転落し、大けがを負った青年。血液検査をした結果、貧血の症状がみられた。青年は、過去、精神的な問題から、自ら血を抜き、貧血状態を作っていた、という人物。また、それをしたのではないか、という疑いがもたれるのだが……
これなどはまさに、医学的な問題と医学的な知識で解決する話だと思う。明らかにみられる貧血症状。血液成分を高める措置をしても改善しない。当然、そこで疑われるのは、自ら血を抜いているのではということ。しかし、本人はそれを否定。そんな中で……。医者と言っても人間、過去の出来事があれば……。そんなところを含めての解決編はなるほど、という感じ。ただ、個人的に左利きトリックっていうのはちょっと引っかかる。
犯罪を絡めての話だと2編目『幻覚パズル』。家の中で少年が、何者かに攻撃され、意識を失った状態で発見された。目撃者は2人。老婆は、不審者が表玄関から、という。一方、家の中にいた少女は、裏口から父親が、という。さて、その真相は……。この話、言葉としては知っているし、実際、そういうケースがあるのもわかる。ただ、その症例が出るのは……という知識から考えると逆に意外性を感じる。
ある意味、変則的なのは、著者がデビューのきっかけとなった3編目『消えた脳病変』。大学の脳についての講義で、講師である老医師が語った事件。患者の脳にあった病変が消えてしまった。その理由は……?
この話って、ネタバレしないと語りづらい話なのだけど、シンプルに言うなら、メタ構造の話と言える。それまでの、この問題は、こういう病が原因で、という医学的な話をしていたからこその切れ味。細かいところをツッコむと、色々と「?」はあるのだけど、作品集全体の構図という視点を加えると、より破壊力を増す、というのが憎い。
読者が推理して、正解に、というのは難しいと思う。また、結構、精神医学、脳神経科学的な話が多いと思う(著者の専門領域?) その辺りでの偏りは感じる。ただ、作品のバラエティなどは工夫されており、飽きずに読むことが出来るのは何よりもの長所だろう。

No.4372


にほんブログ村

スポンサーサイト

COMMENT 0