(書評)最後の秘境 東京藝大 天才たちのカオスな日常

著者:二宮敦人



妻は東京藝大に通う大学生である。そんな妻から、藝大について様々な不可思議な話を聞いた私は、東京藝大とは一体どのような場所なのか調べてみることにしたのだった……
何か、序文に、「座り心地がよさそうだから」という理由で巨大な亀の彫刻を創ったり、はたまた、身体に半紙を貼ってみたり……と、著者の奥様の不可思議な行動が紹介されている。また、タイトルも「カオスな日常」とくる。なので、奇妙な藝大生の、奇妙な行動がつづられているのかな? と最初は思った。……けど、いざ、本編に入ると、結構、真面目な内容。
本書は基本的に、入試、各学科などを紹介しつつ、そこに通う学生たちのインタビューを中心にした構成となっている。その内容も、それぞれの学科などで何を学んでいるのか? どういう感じの学生生活を送っているのか? そんな内容になっている。そして、その中で、美術系(美校)、音楽系(音校)でのカラーの違いとかそういうものが明らかになっていく。勿論、私が卒業した法学部とかとは全く違うカリキュラムとかなのは事実なのだけど、法学部と医学部と理工学部とかでは全く違うカリキュラムだろうし、そのバリエーションの1つだ、と言えば、それ以上にはならないと思う。少なくとも、作中でインタビューに応えた学生さんたちの行動、言動は一部を除いてカオスとは思えないし……
という風には書いたのだけど、この書を読んでいて思ったのは、藝大というものが他の大学とは全く違うものだと認識できた、ということ。
先に私は、大学の法学部を卒業した、と書いた。法学部を卒業して、弁護士とか検察官になる人というのは多くいる。公官庁などに入り、法律などの作成に携わる人も多くいる。でも、法学部にいる中で、弁護士活動をするとか、公務員として働く人は基本的にはいない。あくまでも、卒業後、それらの専門職に就くため、その理論などを学ぶ場となっている。医学部とか理工学部とかでもそれは同じだろう。
それに対して、藝大というのは、理論などを学ぶ場、という側面がないわけではない。でも、例えば、法学部に来た学生は、法律学についてそこで初めて学ぶ、という人も数多くいる。対して、藝大の場合、すでに入試の時点で技術とか、そういうものが身についていることが要求されている。そして、それだけで食べていけるのか、という部分はあるにせよ、多くの学生はコンクールなどに参加するなどプロとして活動をしている。つまり、今後への教育をする、という場ではない。教員にしてもそう。普通の学部の教員であれば、それはその理論などを学生に「教え込む」立場。しかし、芸術は理論を超えた部分を多く含む世界。先に書いたように、これまで絵を描いたことのない人に描き方を教えるならともかく、技術などがある程度の水準以上に達している、という人が入るところでは、すでに「教える」というのは不可能。そういうのを考えると、藝大というのが非常に特殊な存在なのだ、というのを感じずにはいられない。
あくまでも私がこう理解した、というだけのことなのだけど、藝大っていうのは、教育の場というよりも、フリースペースみたいなものなのかな? と思えてならない。つまり、色々なものを制作、発表する自由、そして制作をするための環境が用意されている場所……とでもいうか。
そういう意味でも、ちょっと特殊な場所なんだろうな、と思える。

No.4387


にほんブログ村


スポンサーサイト

COMMENT 0