(書評)出版禁止

著者:長江俊和



著者の長江が手に入れたのは、「カミュの刺客」という題のいわくつきの原稿。そこに書かれていたのは、2002年に愛人と心中を図り死亡した著名なドュメンタリー作家・熊切敏についてのこと。原稿の執筆者・若橋は、熊切と心中を図るも生還した女性・新藤七緒(仮名)と接触し、独占インタビューに成功していたのだが……
そのルポの中で描かれるのは、冒頭に書いた通り、熊切と心中を図ったものの生き残った女性へのインタビューをメインとした内容。事件から7年余り、それまで沈黙を保っていたその女性がようやくインタビューに応じてくれる。そのことへの興奮。折角、答えてもらえそうなのに、寸前でひっくり返されたらどうしよう、という不安感。それでも、しっかりと回答してもらえることになり安心する。しかし、回答を躊躇ったりした部分について、考察していくうちに疑惑が生まれて……。
文庫の裏表紙に「異形の傑作ミステリー」というコピーが踊っているのだけど、傑作かどうかはさておいて、「異形」なのは確かだな、と感じる。
文庫で340頁あまりの作品。そのうちの300頁弱を、若橋というライターが書いたルポ及び手記という形で綴られており、さらに、その内容も前半はルポのような形だったのが、後半は手記のような形になっている。そして、「あとがき」という名のその後で色々とひっくり返していく、という構図になっている。この手の形式で描かれた作品であれば、お馴染みのトリックが仕掛けられているので、そのこと自体はある程度、予測がつくのだけど、インパクトの強い、映像的な事件との組み合わせもあって、印象に残るシーンが多い。
この作品の感想を書いていると、なんで若橋は七緒に惹かれたの? 逆に七緒はなんで? とか、そういうのが薄っぺらい、っていうようなものがあったんだけど、これは作品の形式故に仕方がないことじゃないかな、と思う。むしろ、そういうところがすっ飛ばされているがゆえに気持ち悪さ、みたいなところも味になっている気がするし……
読後感としても。決して晴れやかなものではない。そもそもが、仕掛けをいくつか用いた、という形で、解釈次第で「この部分はこういう意味だ」というのがいくらでも作れそうな気がする。著者が映像作品で出した『放送禁止』シリーズなどを全く知らない私なので、それとの比較はできないのだけど……なんか、深読みすると色々と……っていう作風は、私が中高生くらいの頃に流行ったアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』と、それに影響を受けた色々と伏線が張られて、全てがすっきりと解消されない作品集の味に近いような気がする。

No.4399


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