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(書評)セイレーンの懺悔

著者:中山七里



度重なる不祥事により、放送中止の危機に陥っている帝都テレビの看板ニュース番組「アフタヌーンJAPAN」。起死回生を図るため、葛飾区で起きた女子高生誘拐事件を追うこととなった中里と多香美。間もなく、その女子高生の無残な惨殺体を発見することになり、二人は、その周辺を探ることに。緘口令の敷かれた女子高生の学校での取材で、彼女がイジメを受けていたらしい、という情報を手にするのだが……
マスコミの在り方とか、そういうものが一つになりつつ、同時に、お仕事小説という側面も感じる作品。
個人的に、著者の社会問題を扱う作品は、著者の調査不足なのか非常に一面的でよく言えば青臭い、悪く言えば薄っぺらい青年の主張みたいなものが描かれることが多く、辟易とすることもあるのだけど、本作は比較的、そういうのは抑えめになっていたかな? まぁ、終盤の多香美の演説とかは、そういうものを感じたりするけど。
メディアによるスクープ合戦。事件が発生すれば、いかに早く、関係者にインタビューができるかを競い、そして、本来、事件を捜査する警察をも出し抜いて新情報を、と奔走する。事件に取り組むことになった多香美たちは、その被害者両親へのインタビューに成功。さらに、学校でのイジメという情報から自らの推理を立てていくが……
正直なところ、報道の行き過ぎ。そして、誤報といったものを扱った作品の中で、本作の誤報への動きはかなり酷い。確かに、取材というか、調査の中で、被害者をイジメていたグループがその話題を口にしたのは確かだけど、それだけで追跡調査などをせずに……っていくらなんでもあり得ないレベルでのひどさだろう、と……。「貧すれば鈍する」って言葉はあるけど、それにしてもお粗末。スピーディさを重視した結果かもしれないけど、比較的、冷静な立場にいた多香美、中里と、放送したい上層部との葛藤とか、そういうものを描いてくれた方が「お仕事小説」的な部分では嬉しかったかな? と思う。
そして、その上でのひっくり返し……。これは、登場人物が比較的少なめなので、その点では誰が、というのは予測可能。ただ、一番、最後に出てくる人物の本音ってすごくリアリティを感じる。人間、誰でも表裏があるし、自分の生活だってある。そういうものを考えたときに……。話全体の流れがご都合主義的に感じたりしたことがあったのだけど、最後に吐露されるこの人物の心情で救われた(いや、関係者的にはどん底に落とされる形なのだけどね)

No.4400


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