(書評)合理的にあり得ない 上水流涼子の解明

著者:柚月裕子



法曹資格を失った元弁護士・上流水涼子。「殺し」と「傷害」以外は何でも引き受ける何でも屋をする彼女の活躍を描く連作短編集。
著者の作品というと、短編集であっても「佐方」シリーズとか、『あしたの君へ』とか、どちらかというと「堅い」作品のイメージがあるのだけど、本作はかなり「やわらかい」作品。作中に出てくる題材となるもの自体は最近の話題が多いものの、時事問題というよりもあくまでもトピックスだけ、っていうのが大きいのかな、と思う。
例えば、1編目『確率的にあり得ない』。会社社長の秘書の目から綴られる物語。先代の跡を継ぎ、2代目の社長。現場経験もあり、社員からの信頼は抜群。しかし、決断力という点では問題がある。そんな社長の前に現れたのは、予知能力がある、という男……。
かなり特殊な物語の入り方。そもそも、上水流涼子の解明、とタイトルが打たれているのに、そんな人物が現れない。競艇の着順を全て当てる、という予言を見せる。そして、すっかり信頼してしまったとき……。タイトルの通り、競艇の着順を完璧に当てるのは「確率的にあり得ない」話。そのトリックは? 正直、問答無用な物理トリックなのだけど、このくらいだから、っていうのはあるかもしれない。そして、涼子がどういうことをしているのか、というのはここで理解できた。
同じようなパターンでつづられるのが2編目の表題作。過去、悪どいこともして財産を築いた男。唯一の問題は、息子が引きこもりになってしまっていること。そんなとき、妻がおかしな宗教にはまっているようだと知り……。他の話とは逆に、語り部の男は、そんな宗教のトリックを暴いていく。しかし……。この話の場合は、ある意味、ハッピーエンドのような形でまとまるのだけど、それこそ、新興宗教とかにはまってしまった人が説得できない理由ってのが、しっかりと描かれているように感じる。
涼子と助手の貴山の過去が出てくる『心情的にあり得ない』。涼子のもとに入ったのは、娘が男と共に失踪したから探してほしい、という依頼。そして、その依頼主は、かつて、涼子が顧問弁護士を勤めていた会社の社長で、涼子が法曹資格を失うよう仕向けた男。この話、事件の真相とか、そういうところは良いのだけど、正直なところ、どうにも腑に落ちない部分が……。というのは、作中で涼子がとった、ある意味での裏切り。これは社長側も予見できるんじゃないか? と思える点。そもそも、遺恨を残していたわけだし……。たしかに涼子は頭が切れる。しかし、他に頼める人はいなかったのか? と……。ちょっとそこが気になって仕方なかった。
重厚な作品を、というと肩透かしを食らうと思うけど、著者ってこういうライトな作品っていうのも書けるんだ。まずは、何よりもそんな感想が浮かぶ1作。

No.4406


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