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(書評)大正箱娘 怪人カシオペイヤ

著者:紅玉いづき



大正の東京にて流行る新薬。万病に効く、というその薬の名は「箱薬」。新米新聞記者の英田紺は、その薬を手に入れようとして輪から弾き飛ばされた一人の色黒な少年・治太を助けるが……(『箱薬』)
など、全3編を収録。
著者があとがきでも触れていることなのだけど、まず、タイトルにもなっている「箱娘」こと、うららの出番が少ない(笑) ちょっと会話をしているシーンがあるとか、そのくらいだし。まぁ、3編目ではしっかりと謎解きなどもするのだけど。
前作は、女性という「箱」とでもいうべきものの存在が大きかったが、今回は日本社会というか、身分制度というか、そういうものが一つのカギになっているのかな? というのを感じた。
それこそ1編目。外国人の血が混じっていると思われる少年・治太。小さな少年がなぜ、箱薬を求めるのか? と言えば、一緒に住む「先生」という老人のため。家族同様に自分を包んでくれる先生は、まさに親のような存在であり、また、先生がいなくなってしまったら自分は……。でも、薬を使うのは自分に。なぜならば、治太は、治太という存在だからこそ先生に迷惑をかけている、という劣等感を持っているから……。現在だって、外国人とかに対する偏見っていうのは大きくあるけど、まして大正時代なら……。10歳なるかどうか、という治太の言葉で言わせるところが、強く記憶に残る。
新聞の挿絵を描いている華族のもとを訪れた紺。そこで起きたのは、猟奇的な殺人事件。その真相は……
この話、犯人自体はあっさりと判明する。ただ、その中での貴族の青年と、そこに仕える使用人たちのギャップがとにかく印象的。社会からはじき出された使用人たちにとって、その居場所を作ってくれた華族の青年は優しい人。しかし、青年の方は、というと……。ここまでの無法が許されるかどうか、という問題はさておいても、気持ちのギャップが悲劇の序章というのは当然にあり得ることなのだろう、と思う。
帝都を騒がせる怪人・カシオペイヤについての情報が少しずつ出てきて、また、紺を巡ってのうらら、子爵らの話も掘り下げ。全体的な世界観そのものも掘り下げられてきたな、と感じられた。というか、謎を暴く、という意味ではカシオペイヤも箱娘も同じ。その中で、両者がどう違うのか? そういうのが今後、大きなテーマになっていくのかな? と思える。

No.4415

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