(書評)血の季節

著者:小泉喜美子



青山墓地で発生した幼女殺害事件。なぜ事件を起こしたのか? 被告人は独房で奇妙な独白を始める。昭和10年代の日本。幼き被告が、公使館にて、金髪碧眼の兄妹と交流を持っていたことを……
2016年に復刊された作品で、元は1982年に発表された作品。なので、実に35年も前の作品ということになる。著者自身も1985年に亡くなっているので、この復刊がなければ手に取ることはなかっただろう。
物語は、被告人の独白と、発生した事件を追う警部、二つの視点で綴られる。そして、その中で語られるのは、被告人が幼き日に経験した異国の少年少女との交流の日々。文庫で320頁あまりなのだが、その独白をメインとした部分が270頁以上にわたって綴られる。
この作品のすごいところは、この270頁あまりの部分が全て序章のように感じられること。いや、実際問題として、独白の中でも物語は進展していく。満州事変から国の情勢がどんどん戦争に向かっていく。その中で、金髪碧眼の異国の人間との交流とは文字通り「やってはいけない」ことそのもの。しかし、大人が何と言おうとも、子供の中で育まれた友情を崩すことはできない。でも、少年期の子供たち。ある時、兄弟の妹は自分達とは距離を取るようになっていって……
ある意味では微笑ましい、でも、決して異常とも言い難いような少年時代の風景。しかし、その中でちょっとずつ奇妙に感じられるものは現れる。そして、もしかして? という予感を残して終わった独白。それを受けての終章へ。ここから怒涛の展開。
終章の語り部は、被告人の独白を聴いた精神科医。
被告人の語りは、常に冷静で、内容も整理されており、決して精神に異常をきたした者のそれではない。しかし、だからこそ、その内容は奇妙に思われる。そこから導き出されるのは一体何か? 海外の文化、風説、そのようなものにも通じた医師が語る仮説。それは、ある可能性を示し、それを否定して次へと進み……と何度ともなく進んでは戻るを繰り返して読者を翻弄していく。精神科医が言うように、被告人の独白が冷静であり、それを聞いた精神科医の分析もまた冷静に、論理的に進んでいくからこそ翻弄される、というのは見事の一言。
かなり大胆な構成と、それ故の終盤の破壊力。こうやって復刊されなかったら手にすることも、著者について知ることもなかったことを考えると、非常に良いタイミングで手に取ったんだな、と思えて仕方がない。

No.4416

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