(書評)ディリュージョン社の提供でお送りします

著者:はやみねかおる



物語を現実の形で体験することができる新しいテンターテインメント「メタブック」。本など全く読まないのになぜか採用されてしまった新入社員の森永美月は、入社早々、さっそくトラブルを起こし、M0課へと異動を命じられる。ミステリ作品を手掛けるそこで、天才作家と名高い手塚和志と共に手掛けることとなったのは、不可能犯罪小説を体験したい、という依頼。完璧な台本、舞台を用意して臨んだものの、次々と不測の事態が発生し……
名前は勿論知っているし、どこかで読んだことがあったと思ったけど、実は初読だった著者の作品。あれ~? って感じ。
さて、そんな前置きはさておいて、物語の感想。まず思ったのが「メタブック」なるものをよくもまぁ、思いついたものだ、というところだろうか。
「物語を現実の形で体験することができる」と言っても、イマイチよくわからないと思う。自分自身も最初、「どういうこと?」と思ったし。そこで、それはどういうものなのか、から書いてみたいと思う。すごくザックリというと、客は演劇とか、はたまた映画とかの出演者になれる、というもの。ただし、実際の演劇とか映画とかは、主人公だろうが、脇役だろうが「こういうセリフをいって、こういう行動をしなさい」という脚本がしっかりと作られている。ところが、メタブックの世界では、客には脚本などは基本的にないし、アドリブもし放題。その客の行動に対して、メタブックを提供する側は臨機応変、柔軟に対応して対応しなければならない。しかも、「物語の世界を体験」なので、提供する側が途中、「ここで休憩」として現実の世界を客に見せることはできないし、したら、巨額の違約金を払わねばならない、という枷を背負っている。なんとなく、どういうものか理解してもらえただろうか?
で、この物語で客が依頼したのは、不可能犯罪を題材にした物語。他者が入れない山荘で起きる殺人事件。そんな題材を描いたのだが、その依頼人に対し「永遠の恋人」なる人物から不可解な手紙が届き、さらに、ボートに穴があいていたり、テラスの手すりに切れ込みが入っていたりと、本当に事件に発展しかねない出来事が色々。ライバル社の妨害工作も考えられる中、その依頼人が大怪我を……
こんな感じで、次々と事件が起きて、しかし、やめることが出来ない、という状況の中で、というのは緊迫感溢れるもの……になると思いきや、そもそも依頼人は脚本とかを知らないので、どんどんノリノリで物事を進めてしまう。そして、それに振り回される、という一種のドタバタコメディ的な味わい。さらに、本を全く読まない美月の、ミステリのお約束に対するツッコミとかが入るので余計にそんなカラーが強くなる。
実際問題として、ミステリのお約束は多くある。例えば、名探偵は「最初からわかっていました」とかいうけど、「だったら早く言えよ」となるだろうし、そこまで露骨でないにせよ、なかなか行動を起こさない探偵って、「ただ引き延ばしているだけじゃないの?」という感じにもなるだろう。そういうメタ的なノリで展開する辺りは東野圭吾氏の『名探偵の掟』とかを思い出した。
そして、そんな不測の事態が続いた、その犯人は……。ある意味、壮大な茶番劇なのだろうけど、でも、現在の日本社会が抱えている大きな社会問題ともかかわってくるし、犯人の想いっていうのは切実なのもわかる。巻き込まれる側はたまったものではないにせよ。
多少、それまでの美月と、終盤の美月でキャラが違わないか? と思うところはあったものの、メタブックという実在しない舞台装置を組み立て、それを活かしきったのは流石だな、と感服した。

No.4418

にほんブログ村 本ブログへ
にほんブログ村


スポンサーサイト

COMMENT 0