(書評)天久鷹央の推理カルテ5 神秘のセラピスト

著者:知念実希人



田舎から上京した青年が語るのは、人混みに入ると身体が腐ってきてしまうという。そのような病気はない、と言われた結果、統括診断部へとやってきたのだが……(『雑踏の腐敗』)
など、全3篇を収録した短編集。
今回は、「超常現象!?」と思われるような話を多く描いた印象。
1篇目は、冒頭に書いたような形なのだが、「診断」というものの難しさ、というものを描いた話なのかな? 田舎から上京したばかりの青年。そして、「腐る」という現象が起きるのは、渋谷の雑踏へとやってきたときばかり。そのことに驚いて帰宅するともとへと戻ってしまう。そのことから、身体の病ではなく、精神的なものでは? という見方が出るのだが……。ある条件で、ある症状が現れる。ならば……と因果関係を考えてしまう。心理学の書とかで、本来は関係のないものを因果関係として考えてしまうことがある、ということがある、と説明されているのだけど、そのようなところをどう解きほぐして、病を見出すのか? という難しさを描いた話と言えると思う。
70代になった母が、鍼灸師の「特別な治療」を受けたところ、異様な若返りをしている、という2編目『永遠に美しく』。確かに写真と、現在では別人のように若くなっている。そして、同じ治療を受けている女性たちも同じように……。この治療は本物なのか?
この手の胡散臭い治療を標榜する団体とか、健康食品とか、そういうのはよくあるけど、ここで描かれたことをやったら、本当にそんな効果があるのだろうか? とはいえ、何か効果があるもの、というのは別の効果もある、ということを知らずにやることの恐ろしさ。それを素直に喜んでしまう無知さの罪。それで解決、と思わせてからのもう一歩、という構成も凝っている。
そして、プロローグも含めて、本作の中心となる『神秘の刻印』。白血病の娘に、骨髄移植手術を受けさせない、という母親。彼女がそういう理由は、預言者がそれをせずとも治る、と言ったから。そして、その預言者は十字架の刻印を示し、さらに血の涙を流すという……
この話について、謎解きの部分はそれほど凝っているとは思えない。刻印に関しては、この作品のパターンとかを考えてみても、この辺りかな? くらいのことは想像できる部分があるし。
ただ、その中で、過去のエピソードで、医師であっても救うことが出来ないことあることを目の当たりにした鷹央、という過去のエピソードのおさらい。そして、それを踏まえた上での「治療の意思」というものを題材にした話と言えると思う。治療をすることは、同時に数々の苦痛を伴うことがある。しかも、再発、ということだってあり得る。その時、どう判断するのか? 勿論、大人であれば自分の意思が優先されるが、子供の場合は……
そうやって考えてみた場合、今回の話って、病を含めた謎が何か? ということよりも、その中での医療者の、周囲の人間の、「どう判断するのか?」というテーマで統一された作品集になっているのではないかと感じた。

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  • 2017.06.18 (Sun) 13:01 | 刹那的虹色世界