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(書評)神さまのビオトープ

著者:凪良ゆう



美術の非常勤講師をしているうる波に伝えられたのは、夫である鹿野くんの事故死。それから2年、うる波は、鹿野くんの幽霊と共に暮らしている。それまでと全く変わらずに。そんなうる波の前に現れる様々な形の恋人たち……
「救済の物語」。裏表紙の粗筋では、そんな言葉がつづられているのだけど、「救済」なのかな? という感じがする。正直なところ、傷をなめ合っている、というか……それを見て救われているのなら、救済と言えないこともない、のかもしれないが。
とりあえず、物語の前提を言うと、事故で夫を喪い、しかし、その幽霊と暮らしているうる波。勿論、夫の姿を見ることが出来るのはうる波だけで、夫がいる、なんていうのは周囲の人々に理解してもらえない。親戚からは、「若いんだし」と再婚を勧められたりもしている。そんな中で物語が進む。
そんな中で「救済」なのかな? と思うのは1編目の『アイシングシュガー』。うる波たちのもとへ訪れるのは、大学の後輩である佐々くんと千花。幼馴染であり、長く続いている恋人同士である二人。将来を約束した関係ではあるのだけど、二人の関係に隙間風も感じられる。そんなときに、佐々くんが亡くなって……。ある意味で、理想の夫婦であったうる波と鹿野くん。そんな二人に憧れ、うる波が今も鹿野くんと暮らしている、ということに共鳴する千花。そして、佐々くんが亡くなった後……。自分たちに憧れるのは構わない。でも、軽々しく「こうだ」なんて思ってほしくない。勝手に一緒にしてほしくない。うる波としても、鹿野くんの幽霊と暮らしている、ということが妄想かも、と思うから余計に……。一応、最後にある一言を千花に伝えるのだけど、このエピソードのおかげで、「救済」のイメージが薄れたのかな? という気もする。
また、うる波の開く絵画教室へと通う青年・金沢くん。小学生を対象としたここに通う金沢くんには想い人が。それは……『植物性ロミオ』。
ぶっちゃけて言えば、金沢くんは、小さな女の子しか愛せない人。よく、こういうのだと「変態だ!」とか、逆に「ロリコンだからこそ、紳士的にふるまいます」とか、そんなネタが出てくるわけだけど、実際、そういう性癖を持った人にとっては、冗談にはならない。そして、なぜ、小さな子供が好きなのか? 人は必ず成長する。そして、成長し、子供から文字通りに「異性」を意識させるようになる。その異性としての振る舞いが苦手……。この部分だけを取り出せば、例えば、脂ぎった体質の人には生理的な嫌悪感を覚える、とか、体臭がキツい人は苦手とかと同じではある。でも……。
こうやって書きながら考えてみると、やっぱり救済という言葉がピンとこない。どちらかというと、ちょっと変わった愛、恋、人間の関係を描き、その中で、常にそれは流動し続ける。勿論、そのことはうる波と鹿野くんにも起こりえるだろう。そんなところを描いているのではないか? というような気がするのだけど……

No.4436

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