(書評)開化鐡道探偵

著者:山本巧次



明治12年の晩夏、鉄道局技手見習の小野寺は元八丁堀同心である草壁のもとを訪ねる。その目的は、現在、京都ー大津間で建設工事が進んでいる逢坂山トンネルで頻発する不可解な事件について調査してほしい、というもの。鉄道局長・井上の熱意もあり、調査に乗り出す草壁だったが、到着早々、仮開業中の鉄道から乗客が転落死する、という事件が発生。しかも、それは工事関係者で……
『大江戸科学捜査』シリーズでデビューした著者の、新作と言える作品。あとがきで、著者自身が鉄道会社に勤務していて、かつ、鉄道そのものが大好きだ、という風に書いているのだけど、その「好きなものを書く」という姿勢が強く感じられた。
物語そのものは、結構、シンプル。冒頭に書いたように、明治時代を舞台に鉄道工事をしているところで起きる事件。それは、図面の書き換えなどの様な緻密で計画的なものから、工事資材や工事器具への工作。さらには、殺人……。こうなってくると、それを目的は、鉄道工事の妨害。しかし、その妨害は一体だれが、何のために……
結論から書いてしまうと、謎解き、そのものも結構、シンプルだしビックリするようなトリックとかがあるわけでもない。多少、事件に関わる黒幕の手が広くて、なおかつ、強大な存在であった、というだけになってしまうので。……と、こういう風に考えるとなんかガッカリ感を覚えたように思われると思う。実際、もうちょっと黒幕に対して何かあっても良かったのではないか。そういう風に思うところはある。
ただ、その上での、明治時代だからこその諸々を感じられる、というのが本作の長所なのだろうと感じる。
こういうと何だが、私自身は中学時代までは鉄道を利用するのは年に1回か2回くらいしかなかった人間である。しかし、鉄道がどういうものであって、なんていうのはわかっている。一応、その工事のために用地買収とか、そういうものに纏わる話とかも(高速道路の用地買収とか、そういうのとごっちゃになっていたとしても)わかっているつもりである。一方で、ざっと学んだだけ、とは言え、日本史の知識も多少はあるつもり。ただ、この作品の舞台である明治時代というものに置き換えると、「これもあったな」というのを強く感じるのである。
そもそも、なぜ、八丁堀同心であった草壁が大阪・大津間の工事の調査をすることになったのか? この時点で「そうだった」というのを思い出す。つまり、明治、それも初期は維新を主導した薩長を中心とした藩閥政治がまかり通っていた時代。警察などの行政機構というものにも、その意思が反映され、両者の力関係から手心が出てしまう。さらに、明治の日本にとって、鉄道という技術は未知のもの。そこには偏見なども付きまとうし、当然、産業の盛衰という問題も引き起こす。さらに、当然のことながら、工事を行う人間についても組織とかそういうものが現在のそれとは全く違っている……。歴史の教科書を読んだりして、それぞれの単語はそれぞれ頭に入っているのだけど、それを具体的な物語に反映させている。それを読む面白さ、というを強く感じた。
あとがきで「ストーリーの都合上、史実と異なるように改変した部分がある」とあり、実際、当時の工事風景とは違う部分はあると思う。でも、時代の空気を十分に感じることが出来た。

No.4444

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