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(書評)秋山善吉工務店

著者:中山七里



火災によって自宅と父を亡くした秋山家。残された妻の景子、息子の雅彦、太一の三人は、父の実家である「秋山善吉工務店」に厄介になることに。慣れない祖父母との同居に、四苦八苦する一家だったが……
読みながらまず頭に浮かんだのは、有川浩氏の『三匹のおっさん』シリーズ。著者の過去作で言うと、『要介護探偵の事件簿』あたり。
声がでかく、周囲を委縮させるような迫力を持つ秋山善吉。しかし、そのパワフルさ、まっすぐさで、秋山一家の面々が巻き込まれたトラブルを快刀乱麻に解決していく、という形で展開する。テンプレート中のテンプレートという感じだし、実際にこんな人がいたら、私は全く信頼しない相手になると思うけど(笑)、純粋にエンタメ作品としてスッキリする、っていうのは間違いない。転校先でイジメにあった太一にアドバイスをし、解決の糸口を与える1編目。先輩についていって、犯罪行為に加担させられた雅彦を救う2編目。この辺りは、まさにそのイメージ通りの展開。
個人的に好きなのは、景子がアルバイト先でトラブルに巻き込まれる3編目。にっちもさっちもいかなくなった景子を救ったのは善吉……ではなく、その妻である春江。ただ、まっすぐな善吉ではなくて、一見、ニコニコしているけど、目は全く笑っておらず、しっかりと相手を追い詰める春江の怖さが非常に印象的。この夫にして、この妻あり、かな?
と、ここまでは面白く読めたのだけど、4編目から話が一転。物語は秋山家を襲った火事の真相を、『セイレーンの懺悔』に登場した刑事・宮藤が追って……という形に。
なんか、この変化って、『闘う君の唄を』と似ている。そもそも、こういっちゃ何だけど、宮藤刑事の推理って動機面から攻めていく。結果、この人物が怪しい。ここまでは良いのだけど、そこから事件を成立させるのは、と積み重ねちゃうものだからどう考えても無理があるだろう、といトリックでせめてもそりゃ無理だよ、という感じ。
その一方で真相は、というと、これも何となく予想できる範囲内。それも、消去法で考えると……という感じで。
正直、序盤のエピソードの方向性で話を進めるだけで良かったんじゃなかろうか? きっかけになった事件の真相とかを無理に当てはめなくても良いんじゃないか、と思えてならないのだが……

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