(書評)アンタッチャブル 不可触領域

著者:前川裕



鉄壁の守備で知られた元プロボクサーの瀬尾。ジムのトレーナーと、中華料理店でのバイトで生計を立てる彼だったが、その料理店で起きたある事件をきっかけに、不可解な事件へ巻き込まれていく。往年の俳優の世話をしながら暮らす元マネージャーの保住。その元俳優をバレない形で処分する計画を立てていたが……
なんか、よくわからない話になってしまった気がする。
冒頭に書いたように、物語は瀬尾と保住の視点で綴られる。
個人的には、保住視点の物語の方が楽しく読めたかな? 認知症にかかってしまった元俳優の北森の世話をして過ごす日々。周囲には、この人は恩人だから、と献身をアピールするものの、北森が邪魔で仕方がない。そのために、完全犯罪をもくろむ。そんなときに現れたのは、北森の元妻・雪江と内縁の夫・長崎。北森を引き取りたい、という二人に胡散臭さを感じて……
北森を処分してしまいたい、という感情はある。だから、本来、雪江らに渡してしまえばいいのに、北森を殺して保険金をせしめるつもりだ、という直感からそれはさせない、という気持ちに。でも、北森を処分する気は揺るがない。保住の微妙にひねくれた感情。そして、その中で、北森の鋭いんだか、するどくないんだかよくわからない認知症の症状故の発言に振り回される。適度にユーモアを交えての流れはなかなか好き。
一方の瀬尾はただ、ひたすらドス黒い物語。冒頭に書いたように中華料理店のバイトで生計を立てているのだが、そこで働く少女・友が火傷をした、ということで義父である長崎が怒鳴り込んでくる。そして、やがて、その料理店の店主夫妻が行方不明になり、友とともに長崎が経営する形でそこに残るが……だんだんと、彼らに取り込まれ、友との関係にも溺れて……
こちらのパートは、ある意味、いつもの著者らしい、とにかく派手に人が殺され、大規模な事件になって……という形。長崎らが事件を起こしていたのだけど、それが瀬尾のせい、という方向へとすり替えられていく流れ。『死屍累々の夜』とかのように、主犯の人物が何を考えているのかわからない、ではなく、面倒くさい関係の末、とは言え、最終的な状況へと追い込まれていく瀬尾の状況は理解できるし、そういう意味での不満はなかった。
ただ、そもそもの問題として保住と瀬尾の関係性っていうのがあまりないし、結局、長崎も何がしたかったのかよくわからない。ただ粗暴なだけ、って感じも当初はしなかったのに、だんだんと粗暴なだけに見えてくるし。そして、雪江、友という母娘。ある意味で、彼女らが黒幕ということになり、その真意がわからないことで不気味さを出しているのは事実。事実だけど、じゃあ、結局、何なのだ? という疑問も当然に残ってしまう。
そういうのも併せて、著者の作品らしい、っていうのは間違いないのだけど。

No.4458

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