(書評)レミングスの夏

著者:竹吉優輔



中学2年の夏、アキラたち5人は市長の娘を誘拐した。市長に突き付けた要求は、開発を止めるなど、6つ。中学受験から、長い時をかけて準備をした彼らの目的とは? そのリーダーであるナギの心にあったのは……?
なかなか感想を書くのが難しい作品だな、というのがまず思ったこと。
物語は冒頭、事件から4年後。高校3年になったアキラたちが、「あの時」を思い出す形で始まり、過去の出来事へと移っていく。
皆で、近隣の有名中学への進学を決意。そして、中学に入った後は、それぞれの接触を極力避け、それぞれが全く関係のない存在のように振る舞う。そんな長い時間をかけて進められた計画であること。そして、その標的としたのは市長の娘。すべては、集団で海や川を渡り、新天地を目指すレミングスのように。
という感じで、一見、市長に対する政治犯のように見せつつも、しかし、それが政治犯ではないことが読者視点では明らか。とはいえ、じゃあ、全く要求に意味がないのか? と言えば、そんなことはない。そういう意味では、ホワイダニットのミステリという風に言える。そして、読み進める中で明らかになってくるのはサキという一人の少女。そして、彼女は……
裏表紙の紹介文で、スピーディな展開、とあるのだけど、ある程度の概要は物語の中盤で明らかになっていく。だが、今度は、その事件のリーダー的存在であるナギの焦り、独断専行が見え隠れし始める。勿論、ナギが将棋の師匠と呼ぶ刑事・長峰がだんだんとナギの存在に気付き始めた、というのはある。でも、全体を通せば計画通りに進んでいるはず。では……?
読み終わってみれば、この作品のテーマは、社会派ミステリと呼ばれる作品でしばしば題材とされるものであることが判明する。正直なところ、その辺りの社会問題とかについて、ある程度、齧ったことがある身として、一方的な視点だ、と切り捨てることも可能。でも、この作品の場合、上手いのは主人公をそのある意味での当事者に設定したこと。そして、その設定にしたことで無茶というのも仕方がない、と思わせることに成功していること。作中でも出ている言葉だけど、「中二病」ってのは上手く表現した言葉だと思う。
気になった個所もないではない。例えば、誘拐の被害者である市長の娘が妙に理解のある存在だったりとか流石に無理がない? とかどうしても思ってしまう。
とは言え、先に書いた通り、この題材を上手く青春小説に落とし込んだ手腕は見事の一言だろう。

No.4462

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