(書評)クローバーナイト

著者:辻村深月



アパレルブランドを立ち上げた妻にかわり、保育園への子供の送り迎えなどを担当しながら会社勤めをしている鶴嶺裕。そんな彼が目の当たりにするのは、保活に、お受験、お誕生会、そして、妻の不倫!?
著者の作品は、デビュー作から大体の作品は読んでいるけど、すっかりお母さんネタが板についてきたな、という印象。保活やら何やらって、本当、デビュー当初の作品とは全く違うもの。
と、同時に思うのは、この作品の中の世界。加納朋子さんの『我ら荒野の七重奏』を読んだときと同じように、自分が育った世界とは全く違う、異世界だな、という印象すら覚える。
いや、まぁ、物語の中にあるのは、常識の違いとか、そういうところ。例えば、保育園を巡っての2編目。子供を産み、産休を取る。そして、再び仕事へ。その仕事復帰には、仕事中、子供を預かってくれる場所が必要。でも、圧倒的にそれが足りていない。これは、最近、よくニュースなどでも目にするもの。と、同時に、その保育園に預ける、ということについての無理解なども存在する。「保育園に預けるなんて、子供がかわいそう」なんていう者もいる。一方で、保育園に子供を預けるのに、事情がある者が有利。例えば、シングルマザー……。終盤の流れがちょっと他の話へとシフトさせてごまかしたエピソードになった気はするけど、問題を切り取ったエピソードとは言えるだろう。
逆にお受験を巡る3編目は、先に書いた加納さんの作品を読んだときと同様、完全に異世界間ばかりを感じてしまった。
自分の場合、限界集落育ちで、保育園とかはむしろ子供が少なくて楽に入れる場所だったし、その後は幼稚園、小学校、中学校、高校と選択肢が一切用意されていないエスカーレーター式で育った人間。確かに、大変なのはわかるけど、別に受験なんぞしなくたっていいわけで、選択肢があるだけええやん、と思えてしまう。そして、誕生会に関する4編目は……。自分の大学の付属校とかじゃ、こういうのもあるのかも、と素で思った(学食で飯を食っていたら、同じ敷地にある幼稚園に子供を通わせる親と思しき二人組が「〇〇様のお兄様は優秀らしいですね」「いえいえ、そんなことはございませんのよ」「「おほほほ……」」みたいな会話を本当にしているシーンを目の当たりにしたことあるし(笑))
そんな中でのちょっとしたやりとりが伏線として表に出てくる最終編。ここは、いかにも著者、という印象。
それまでの話から、妻に不審な点があり、「妻が不倫?」という形で始まるのだけど、ネタバレをすると、実は実家の母(裕からすれば義母)と子供のことで争いが生じていた、という話。それは、長男の言葉の発育が遅いのではないか? というもの……
教育方針の違い、というのは他のエピソードでも見え隠れするのだけど、ここでの話は発達障害とか、ある意味、医学的なものを伴ったもの。
普段から一緒に暮らしていて、子供がおかしいとは全く思わない。しかし、距離の離れた母親から見れば……。そして、こうしろ、こうしろ、と次々と命令をしてくる。反発はしている。でも、じゃあ、全く無視もできなくて……。作中、どちらかと言えば、言うべきことは言う。理性的に、論理的に物事を割り切る。裕の妻・志保がそういう存在として描かれていただけに、意外ではあった。でも、そういうのが人間臭い、とも思うし、どうしても押し切られてしまう、という弱さというのは凄くわかる。そんな状況を知って、裕が立ち上がるのだけど……でも、完全に解決したわけでもない。その割り切れなさ、とか、そういうものも含めて、家族、親戚という関係、そして、生活はずっと続いていく、というのを感じさせる話になっていたと思う。
先に書いたように、大半のエピソードは「異世界の話だな」という感じだったのだけど、それを最後の最後に、一気に身近に持ってきてもらった、という感じがする。

No.4464

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