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(書評)彼女の色に届くまで

著者:似鳥鶏



画廊の息子として生まれ、幼いころから画家を目指していた緑川礼。なかなか美術展の公募などでも上手くいかない高校生活のある日、彼は絵画損壊事件の容疑者にされてしまう。そんな危機を救ってくれたのは、同学年の無口な少女・千坂桜。彼女は、有名絵画をヒントに謎を解き明かし、礼はそんな彼女に絵を描くよう勧める。圧倒的な美術センスを持つ桜と、礼の前には次々と絵画にまつわる事件が起こって……
まず、本書は結構、金のかかった本のつくりをしているな、なんていう内容に関係のないことを思ってしまった。
物語としては、画家を目指している礼が、自分で絵を描くよう勧めた桜の圧倒的な実力に嫉妬し、しかし、同時に彼女の腕にひかれざるを得ない、というパート。そして、二人の前に事件が起こり、それを桜が解き明かす、というパートを繰り返す形で構成されている。そして、その謎解きのヒントとして、有名な絵画が出てくるのだけど、それぞれ、ちゃんとその絵画の写真が出てくる。本編の部分ではモノクロだけど、巻末にはちゃんとカラー写真で載っているなど、本当に金が掛かっているな、と感じる。
ただ、正直なところ、途中までは結構、退屈だと感じてしまった部分があったりする。終盤、ちゃんとヒントとして機能することになるのだけど、謎解き自体が結構、強引と感じるところがあるし、パターンも似通っている。なので、どうにも……と感じるところがあったりする。
ただ、その一種の短編エピソード的なものと、その間にある礼の葛藤、というものがだんだんと入れ替わっていく。画家として華々しくデビューするチャンスを手に入れながら、表に出ようとしない桜。そして、自分の限界を理解し始めていく礼。そして、その挫折の中で、礼が解き放った本当の真相……
その謎自体も、ある程度、予想ができていたところがあるのだけど(実のところ、桜の筆名について見た瞬間に「あ、これは……」と気づいた)、その上でのまとめ方が見事。明かされた真実の中、自分には画家としての資格がないという桜。その桜に対して、礼がいう一言。
「この先一生絵を描かないで我慢するなんていうことは絶対にありえない」
これまでの経緯、そして、その一言により、一度は挫折した礼の成長。そして、桜の一歩へ。きれいな青春小説へと昇華された結末は素晴らしかった。

No.4494

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