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(書評)追想の探偵

著者:月村了衛



雑誌「特撮旬報」の編集者・神部実花は、消息不明の関係者などを探し出し、インタビュー記事を成功させることから「人捜しの神部」と呼ばれている。そんな彼女の日常を描いた連作短編集。全6編。
著者の作品というと、『機龍警察』のようなSFミステリ。もしくは、『槐』などのようなアクション作品という印象があるのだけど、本作はある意味、日常の謎作品。こういう作品も描くんだな、というのがまず最初に抱いた感想だったりする。
まず最初に言うと、私は特撮作品については全く詳しくはない。小さいころ、現在でも日曜の朝にやっている戦隊ヒーローものの作品を見ていたことは間違いない(おぼろげだが、後楽園遊園地のショーを見に行った記憶もある)し、全く触れていないわけではないのだけど、何という作品だったかとか、そういうのは全く覚えていない。恐らく、本作のエピソードに出てくる作品の元ネタとかがあるはずなのだけど、それを理解できたのか? というと怪しいものである。
そんな物語の導入編と言える『日常のハードボイルド』。実花が探すこととなったのは、数々の作品の技術スタッフとして携わった男。元々、映像業界の人間ではなく、務めていた会社がつぶれた結果、流れ着いた形で携わった人物であるが、本職の技術者であったことから様々な作品にかかわり、そして、忽然と姿を消した……。そんな男を探す中で描かれるのは実花がどういう人物であったか? という点。幼いころ、兄が見ていた作品で特撮に魅了された実花。しかし、やがて兄は特撮を「卒業」。同年代の人にもそれは理解されなかった。しかし、それでも特撮が彼女が好きなことは揺るがなかった……
先に書いたように私は特撮作品には詳しくない。でも、コミケでアニメに関する同人誌を刊行していたりするように、私自身はアニメが好き。正直、スタッフとか、そういうものに詳しいとも言えないし、実花のような情熱があるかと言えば「?」。ただ、それでも、アニメは「卒業すべきもの」とか、そういう風に言われる時代を過ごしただけに実花の気持ちには共感できるし、結末でのシーンは、すごく幸せだったのだろうと感じられた。
一方、お蔵入りとなってしまった話について探る2編目『封印作品の秘密』。これについては、私が知っている数少ない特撮作品の1つ『怪奇大作戦』の第24話を念頭において読んだ。撮影は順調に進んでいたはず。ところが、それはなぜかお蔵入りになってしまった。どこかの団体などからのクレームがあったのか? それとも?
「お蔵入り」というと、どうしても差別表現とか、はたまた性、暴力表現なんていうものがあるが、それらがあったとは思えない。そして、判明する理由。ある意味、あまりに非合理。また、ある意味、あまりに情緒的。でも、それをお蔵入りさせた人物の想い、というのが印象に残った。
そんな中で、ある作品の関係者と思われる人々が集まった集合写真。そこに映った11人を探す『最後の一人』。物語の大半は、文字通りに人捜しそのものなのだけど、そこで待っていたのは1編目との対比。1編目において、特撮が彼女の心のよりどころだった、というのが描かれる一方で、こちらでは、それがより確固とした形になって締められる。最後の一人が過去に味わったこと。一方の、実花自身の現在。
間違いなく言えるのは、実花にとって、この仕事、この職場が彼女の居場所ということ。それを自覚しての、彼女の今後も読みたいところ。

No.4514

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