(書評)孟徳と本初 三國志官渡決戦録

著者:吉川永青



帝を擁する肝雄・曹操。名門・袁家の王者・袁紹。かつての友であった二人は、中原の覇者を巡り一大決戦へと向かっていく……
途中、短編作品では出ているようだが、著者の作品で三國志を題材にしたものはデビューシリーズである『戯史三國志』シリーズ以来。劉備のキャラクターがべらんめぇ口調の博奕打ち的なキャラクターであるとかリンクしており、シリーズの一作に入れても良いんじゃないか、という風に思う。
「官渡の戦い」。三國志の大きな戦というと、赤壁の戦いとか、夷陵の戦いとか、北伐とか、色々とあるわけだけど、戦としての期間とか、そういうのを含むとトップクラスの総力戦だった戦いであったように思う(勿論、赤壁の戦いとかだって、いざ、決戦という前に様々な駆け引きとかあったわけだけど、いざ決戦となってからは諸葛亮、周瑜らの策略で一気に決着がついたような印象が強いため)
最初からネタバレ的な話をすると、この作品の場合、袁紹の参謀の一人である郭図、そして、許攸が最初から袁紹を敗北へと導くために暗躍している、というのが前提となって描かれている。そして、この文章を書く前に、他の人の感想とかを見ていたら、「なぜ郭図が裏切ったのかがよくわからなかった」というものが散見された。確かに、はっきりと動機などが綴られた文章はない。ただ、読んでいると、自らの才で頭角を現した曹操や孫堅らのように、自らも、という野心から、ということだろうと思われる。そして、そういう風に読んだ場合、この戦いは旧勢力と新勢力の戦いだったのだろう、というのを思わずにはいられない。
作品によっては、名門の家に生まれ、その名前だけで勢力を築いた凡将という描き方をされることすらある袁紹。しかし、本作の場合はそうではない。
名門の家に生まれ、その名によって地位を得たことは間違いない袁紹。自らの甘さも自覚し、一方で、名門という名前が武器になることも理解し、それを活かしながら勢力を伸ばしてきた袁紹。名門だからこそ、その徳と仁に重きを置き、王道を通すことでの覇権を目指す。しかし、その前に立ちはだかるは旧友である曹操。戦いたくない。しかし、そこへ劉備という存在が現れ、徳と仁を重んじるからこそ戦わざるを得なくなってしまう。劉備の狙いは漁夫の利であることは確か。しかし……。そんな中で袁紹は、戦いに勝ち、曹操を味方に取り入れることを決意する。
前半は、そんな感じで袁紹(というか、郭図)側の視点で物語が綴られる。そして、後半は曹操の視点。そこで描かれるは、長期の戦いの中で、圧倒的な物量で迫ってくる袁紹軍に追い詰められていく姿。決断力がない、など、配下の将たちは袁紹を侮る。しかし、曹操は旧友である袁紹が決して凡愚な将ではないことは知っている。実際、陣営は追い詰められていき……
名門であるがゆえに、派閥争いもあり、それを抑えるためにも王道を貫かねばならなかった袁紹。新興勢力であるがゆえに、一枚岩であった曹操。そこを思うと結果は最初から明らかだったのかもしれない。ただ、息子たちの長所も短所も感じながら、その団結を説いた袁紹。そして、決戦において、あと一歩まで曹操を追い詰めた袁紹。決して凡愚ではない袁紹の魅力を十分に感じさせる作品だろう。

No.4522

にほんブログ村 本ブログへ
にほんブログ村


スポンサーサイト

COMMENT 0