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(書評)嘘をつく器 死の曜変天目

著者:一色さゆり



人間国宝候補と言われている陶芸家・西村世外。その窯元に弟子入りした早瀬町子は、世外が作ったという見たこともない焼き物を目にする。ところが、その直後に、その世外は何者かに殺害されてしまう。世外の後継者を目指していたものの、父に認めてもらえない息子の久作との対立も浮き彫りになる中、町子は、その焼き物が偶然にしかできないという曜変天目らしい、ということを大学の先輩である馬酔木に教わり……
著者のデビュー作と同じく、美術品を巡るミステリー。ただし、前作は、ギャラリーを取り仕切った先輩が急死し、その仕事に四苦八苦する、というお仕事小説としての側面もあったけど、今回は焼き物を巡る蘊蓄などを多く含んではいるものの、かなりオーソドックスなミステリ小説に仕上がっている。
窯出しをした後、土を取りに行った現場で殺害された世外。その場所は、山中であり通り魔的犯行とは考えづらい。また、その凶器は鍵によって管理された道具の保管庫から持ち出された轆轤。そのような状況で、最有力の容疑者となったのが息子の久作。そんな当の久作は、と言えば執拗にその窯の跡を継ぐ、と主張しているのだが……。そんな事件のカギとなるのは、世外がひそかに作っていた曜変天目……
正直なところ、前作同様、ミステリーとしての謎解きはかなり弱いうえに、強引。警察が久作を容疑者とみなす最大の原因と言える凶器について、なのだけど……そもそも、道具の保管庫って、そこまで厳密な管理がされているのだろうか? そして、その管理を破ったトリックって……。わざわざそんなものを作るのならば、隙をついて鍵を拝借して合鍵を作るとかでも十分に可能なのではないだろうか? また、物語に新興宗教団体の存在が見え隠れするのだけど……わずか、これだけのために出てきたの? という感じ。教祖が、陶芸作品を売っているとか、そういうのって、あんまり物語に寄与していない、というのがどうにも引っかかって仕方がない。
ただ……著者が描きたかったのは、そこではない、伝統工芸などの一子相伝、という部分なのだろうな、というのは思う。
伝統のある窯元。そこには、窯などの道具があり、また、取引相手などの人間関係もついて回る。それを受け継ぐ、ということは、陶芸家としての活動にはこの上なく有利。しかし、それを継ぐことが出来るのは……。その一方で、家族というものの持つ呪い。好き嫌いに好まず、それはついて回り、時にそれが呪いとなってしまう。そのテーマ性自体は強く感じることが出来た。
とはいえ、オーソドックスなミステリの形にしたため、どうしても謎解きへの期待が膨らむわけで、その期待に応えてくれたか、というと疑問。

No.4536

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