(書評)猫曰く、エスパー課長は役に立たない。

著者:山口幸三郎



千川兆介、49歳。中堅スポーツメーカー・カケフジで女子社員ばかりの総務課に勤める課長。最近は頭髪が薄くなったのが気になり、家では妻子に頭の上がらない日々。そんな彼には、実は、傷に触れるとその過去がわかるサイコメトリーの能力があって……
という千川兆介の日常(?)を描いた連作短編集。全7編を収録。
なんだろう……? 読んでいて思ったのが、作品のカラーとして、奥田英朗氏の日常系作品を読んでいる時のような印象を受けた。まぁ、サイコメトリーの能力があるとか、兆介があまりにもダメすぎるとか、奥田作品のキャラと比べるとちょっと極端なきらいがあるにせよ。
正直なところ、最初はちょっと「あれ?」と思うところがあったりする。というのは、あまりにも兆介のダメっぷりが最初に出てくるため。
1編目の『昼食事情』。昼食を食べるために入ったラーメン屋。そこで隣の席に座ったのは、最近、周辺で話題になっている食い逃げ犯。毎日の昼食代すら厳しい兆介は、食い逃げをしようとしている相手を阻止しようとするのだが……。作戦も悪くはないと思うのだけど、いかんせん、挙動不審すぎるとか、その辺りがどうにも……。2編目の『帰宅途中』にしてもそう。財布を無くしてしまって、過去を探そうとする話。でも、家出少年と出会っただけでおやじ狩りと勘違いして……とか、ちょっとねぇ……。まぁ、どちらもそんな兆介の行動がプラス方向になる締めではあるんだけど……
ただ、そんなところからだんだんと方向性が変わっていくのが中盤のエピソード。
競技大会に営業に行った先で、ひょんなことで有力選手の秘密を知ってしまった『競技大会』。もし、このまま大会に出場したらこの娘の将来が……。コーチに対し、自分の情けなさを伝えながらも必死に棄権すべし、と訴える姿はなかなか格好良かった。また、『趣味道楽』において、普段、自分を邪険にしている妻が、娘を叱るシーン。そして、そんなことをすべて知った上での娘への言葉。最初があまりにも情けなかったから、ってこともあるんだけど、情けないけど、でも、父親らしさ、というのを感じられてよかった。
そして、最後のエピソードである『親不孝者』。
母が亡くなった。兄弟が集まっての葬儀などの中、兄、姉たちから言われるのは、「お前は年の離れた末っ子だから、甘やかされていた」という言葉。そして、母の生涯……。
かつて、大地主だった千川家。しかし、時代の移り変わりの中で家は没落したが、母はその時代の意識を捨てきれなかった。そして、「家」を復興させるべく口出しをした母は、家に縛られた「可哀そうな人」というのは兄たちの評価。自分の結婚などについても色々と口出しをし、困らされた。でも、兆介の結婚は全く口出ししなかったのはその証拠だ、と。
しかし、母の過去、その時代の記憶を見た兆介は……。確かに、母は、過去に固執した部分があった。でも、それではダメと反省したからこそ、自分を優しく育ててくれた。そして、兆介の情けなさを認識していても、結婚相手に選んだのは、そんな兆介を支えてくれるようなしっかりものの女性だと評価していた、ということ。そんな母の想いを知って、少し自信を持ち、でも、自分の弱さはそのまま……。ハッピーエンドとか、そういう形ではないけれども、親の想いを知った上での日々、というのに十分な余韻が残る。

No.4538

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