(書評)アイネクライネナハトムジーク

著者:伊坂幸太郎



妻に出て行かれたサラリーマン、声しか知らない相手との交流を続ける美容師、クラスメイトの少女から自主パトロールに誘われた高校生……日常のちょっとしたことの中にある出会いを描いた短編集。
あとがきでも記されているのだけど、もともとは、斉藤和義氏のアルバムの作詞を依頼されたことから紆余曲折を経て生まれた短編をきっかけに生れたものだという。確かに、著者が自分で「恋愛ものは苦手」とあるように、人と人の出会い、とか、そういうものを題材にした作品ってパッと思いつかない。そういう意味ですごく新鮮だった。
そのきっかけとなった1編目『アイネクライネ』。同僚のミス・藤間のミスにより、夜中にアンケート調査をすることになった僕。なかなか声をかけても相手をしてくれない。そんなとき、協力してくれた女性。そんな彼女のカバンについていた人形が気になって……。先に書いたきっかけの物語なのだけど、作品の雰囲気とか、そういうものはいつも通り。常識的に考えれば、突拍子のないような物言いをする人物の、しかし、実は核心をついているのではないか、という言葉。それを通じて、でも、しっかりと出会いの物語になっているのが流石。
同じ形で描かれたという2編目『ライトヘビー』。自分を指名してくれるOL・香澄から、弟を紹介された美容師の美奈子。電話番号だけを知っていて、時々、掛かってくる香澄の弟との会話を楽しむようになっていくが……。こちらはミステリらしい仕掛けが何よりもの特徴。そのうえで、何かきっかけで告白するんだ、という男性の話をしながら「それって他力本願じゃない?」なんて会話で盛り上がる香澄と美奈子の会話が、いかにも女性同士のおしゃべり、という感じで印象的。
多少のブラックさを感じるのは『メイクアップ』。広告会社の広告制作の打ち合わせのため、結衣の前に現れたのは、学生時代、彼女をいじめていた亜季。結婚し姓が変わり、容姿も当時とまるっきり変わった結衣は、バレているとは思わないが……。この話は、それまでの話とは違い、なかなかスリリングな物語。学生時代、クラスの女王様として君臨した亜季。自分に対する態度などからは、そんな頃の面影は見えない。本当に変わったのか? しかし、一方で、自分の前に現れ、表向きは他人として交流を求める亜季の真意は? 正体がバレているのか、それとも? そんな状況の中で、明後日の方向からのオチ。メインの部分は取り残された感じもするが、ちょっと優しい(?)感じがするため、読後感は良い。
そして、最後のエピソード。これまでも、登場人物たちの間に関連性が見え隠れしていたので、それらを結びつける話っていうのは予想できたのだけど、時系列が色々と前後した話については……ちょっと読みづらかったかな? もうちょっとすっきりしていても良かったかも、と思ったり。

No.4557

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