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(書評)政治的に正しい警察小説

著者:葉真中顕



全6編を収録した短編集。
こういうと何だけど、このエピソードの組み合わせ方が何とも言えない味を出しているなぁ、というのを思わずにはいられない。序盤は、結構、真面目な話なのに、後半のエピソードに向かうにつれ、だんだんとぶっ壊れていく、とでもいうか……
例えば、2編目の『神を殺した男』。最年少でプロ棋士となり、圧倒的強さでタイトルを総なめにした紅藤。しかし、彼は、同じくプロ棋士であった黒縞によって殺害されてしまった。黒縞もまた、紅藤にはかなわないとはいえ、圧倒的な強さを誇る「天才」と言われるだけの才能の持ち主。「紅藤がいる限り、名人になれなかったから」と動機を説明した黒縞だったが、彼らのことを取材したライターの私は関係者に取材を続けるが……。関係者への取材で明らかになってきたのは、黒縞は同性愛者だった、ということ。そして、彼が愛していたのは紅藤。紅藤には妻がおり、愛憎の果て? しかし、黒縞の師匠は、紅藤の結婚を心から祝福していたという。では、紅藤は黒縞に言ったという「望みには答えられない」の意味は?
作中での事件が20年前のもの。当時は見向きもされていなかったものが、現在は……。私の知り合いも、実は、そういう部分に手を出しているとか、現在、色々と盛り上がっているそれを予見していた二人。だからこそ……という皮肉な結末は端正で、印象に残る。
そういう端正な物語から、「あれ?」って方向へと移っていくのは4編目『リビング・ウェル』。大好きだった祖父が事故で意識不明になった。回復の期待は低く、祖父は尊厳死を求めていた。しかし、金銭的に困窮していた叔父夫婦は、その年金を目当てに治療の継続を訴えて……。尊厳死というけれども、その意思をどう表すのか? そんなテーマで読ませると思ったら、そのオチ(笑) 作中で叔父夫婦が訴えていた言葉が、別の形で、しかし、本当に……っていうブラックな結末はなかなか笑わせてもらった。でも、ある意味、このオチも含めて尊厳死などの難しさを表しているのかも。
そして、同じような形なのが、『カレーの女神』。母に捨てられた大学生の淳平。そんな彼の記憶にある母の思い出は、母が作ってくれたカレーの味。特殊な方法で作ったカレーだ、ということらしいのだが、その味に出会ったことはなかった。しかし、たまたま入ったカレーショップで、その味に再開して……。ハートフルな形で物語が終わったと思ったら……。こっちは社会問題とか、そういうことは関係なく、シンプルにひどいオチ、と言えるかも。
そして最後の表題作。作家として順調にキャリアを重ねてきた浜名湖。しかし、自分の形、といえば聞こえが良いが題材だけ変えて同じ作品を作っているだけ、というジレンマに陥っていた。そんなとき、彼が出会ったフリー編集者は、政治的に正しい(ポリティカルコネクトに沿った)警察小説を書くべき、と提案する……。
とりあえず、この作品の内容についてはノーコメント。ただ……一つだけ言えることとしては……結末は最初から知っていた(笑) っていうか、こういうのを突き詰めれば突き詰めるほど、何も書けなくなるのは間違いない。何というか、線引きは難しいけど、こういうことを訴えている人の中の、極端な方向に走った人たちの主張を見ていると、こういう方向を目指しているとしか思えないよね、と思うことはある。それ以上は何も言わない。
結構、この作品集は前半の話が好きか、それとも、後半の話が好きか、両極端になるんじゃなかろうか、という気がする。

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