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(書評)阪堺電車177号の追想

著者:山本巧次



大阪南部を走る路面電車・阪堺電車。その中でも、現役最古のモ161形177号は、戦前から85年もの時間を大阪の街と共に走ってきた。そんな阪堺電車の周辺での事件を描いていく連作短編集。
それぞれのエピソード。登場人物にリンクはあるものの、物語的は基本的にそれぞれ独立した物語となっている。そして、この作品の良さは、戦前から戦後に至るまで、それぞれの時代背景がしっかりと感じられるところじゃないかと思う。
例えば、177号がデビューした当時を描く1編目『二階の手拭い』。阪堺電車の車掌である辻原は、沿線の質屋に毎日のように手拭が掛かっているのを発見する。あれは、何かのメッセージか? そんなことを思っている中、事件が起こり……。手拭でメッセージを、なんて、作中でも言われているように映画や小説じゃないんだから……というようなもの。でも、まだ景気が悪化する中とはいえ、牧歌的な雰囲気があった時代なら、という感じ。そして、そこにもちゃんとひっくり返しを入れてきて、「こういう作品集なんだな」というのをしっかりと感じられる導入編。
一番、温かい雰囲気が漂うのは、3編目の『財布とコロッケ』。阪堺電車で通勤する章一は、いつも乗り合わせる女性に一目ぼれしながらも、声をかけられずにいた。そんなとき、彼女が財布を落とし、それを一人の少年が拾ったのを目撃する。しかし、その少年は、財布を返す素振りすらなく……。女性が落とした財布は、出ていった母が使っていたのと同じだから……という説明をされるが、実は……。ひっくり返しもさることながら、章一が少年に食わせたコロッケ。今では何てことない料理だけど、当時はごちそうだったんだ、という感覚の違い。そして、少年の、ある意味でちゃっかりとした、一方でしたたかさを感じさせる思惑が何とも心地よい。
逆に、バブル時代を舞台とした『宴の終わりは幽霊電車』。キャバクラ嬢であるアユミは、自分の店に、実家を破滅へと導いた地上げ屋・相澤がやってきて、今なお、同じことをしているのを知り、復讐を企てる。地上げのために色々な嫌がらせをする相澤と、それに対抗するアユミと、そのターゲットとされたたこ焼き屋の攻防というのもさることながら、その相澤の事情が印象的。いや、同情すべき点がある、とか、そういうことではなく、自らの破滅すら天秤にかけた金儲け。会社の資金をすべてつぎ込み、借金をしてでも土地を手に入れ、しかし、それを転がすことで莫大な利益を手にすることが出来る。最終的に相澤の野望は果てるわけだけど、そのやり方自体が時代を反映していて印象深い。
大阪って、本当に自分にとって縁もゆかりもない土地なのだけど、程よいユーモアの含まれた作風と言い、読んでいて温かい、懐かしい気分になることが出来た。

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