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(書評)悪い夏

著者:染井為人



地方都市の社会福祉事務所で生活保護者の元を回るケースワーカとして働いている佐々木守は、同僚が生活保護の打ち切りをちらつかせ、女性との関係を持っている、というタレコミ情報を得る。その相手女性のもとを訪れることになった佐々木だったが、生活保護の不正受給を巡る脅迫事件に巻き込まれて行って……
第26回横溝正史ミステリ大賞優秀賞受賞作。
冒頭に書いた粗筋だと、佐々木の視点のみで綴られる物語のように思えるけど、ストーリーは佐々木を巡って多視点で綴られる群像劇。
生活保護の不正受給を利用して自らのシノギとするヤクザ・金田。その金田の舎弟で、合成麻薬の売人をしている吉男。生活保護の件で佐々木の同僚に脅され、娘へのネグレクトを続ける愛美と言った面々の視点で物語が綴られる。
物語のきっかけは、愛美が体の関係を持たされている、という情報。金田は、そのことを利用して、不正受給ビジネスを拡大しようと目論む。一方の、佐々木も、同僚の問題を知り、それを追い詰めていく。そして、その同僚がケースワーカーをやめたことで、今度は佐々木を罠にはめようとして……
とにかく、登場人物がそれぞれ、どうしようもない人間である、というのが一つのポイント。佐々木は、それほど仕事熱心というわけではないが、立ち回りがうまくなく、半ば、押し付けられる形で同僚の問題を探ることになるだけ。金田は言わずもがな。そして、吉男もまた、金田の舎弟、ということにはなっているものの、金田に利用されているだけと自覚しており、金田を出し抜いて、ということを考えている。
序盤は、それぞれがバラバラなのだけど、だんだんとそれぞれの関係が接近しスピードアップしていく様はなかなか見事。基本的にダメな人々ばかりなのだけど、佐々木と愛美が出会って少し上向いたところで……の崩壊っぷりは見事。そして、作中、ほとんど物語に関係のなかったある人物の事件が引き金となったオチは……
物語の雰囲気は暗いものなのだけど、そこまで凄惨な描写とかがあるわけではないので、そういう苦手な人でもそこまで苦なく読むことが出来ると思う。そして、一周回ってギャグのようになったオチはある意味、見事。スカッとする、というのとも違うのだけど、行きつく先はこうなるしかないよな、とでもいうか……
なかなか面白かった。

No.4586

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