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(書評)さよなら僕らのスツールハウス

著者:岡崎琢磨



川岸の絶壁に立つシェアハウス・スツールハウス。若者たちが腰を掛けるように住み、巣立っていくそこを舞台にした連作短編集。全5編を収録。
こういうと何だけど、結構、話の出来不出来があるように感じられる……というか、無理矢理な話が結構あるように感じられた。
それを一番に感じたのは2編目の『シャワールームの亡霊』。スツールハウスにかつて住んでいた面々が、久しぶりに会おう、という話が持ち上がった。久々に会った面々の間で話題となったのは、シャワールームで起こった不可解な出来事。皆がいる中で聞こえるシャワーの音。しかし、確かめに行くと、そこはもぬけの殻。しかも、そんな出来事が何度か繰り返されて……。謎解きとしては、物理トリックを用いた密室トリックとでもいうべきもの……なのだけどその真相、動機がなんだかなぁ……という感じ。その動機はいくらなんでも無理矢理すぎる気がするし、何よりもそれだけの状況があって、皆が気づかない、ってことはあるんだろうか? いい話のようにまとめているけど、ちょっとなぁ……という感じがしてならなかった。
逆に出来が良いと感じたのは3編目の『陰の花』。昔から花が好きで、スツールハウスを出た後は、花屋で働いている白石。そんな彼の元へ届いた1通の手紙。差出人は、かつて、スツールハウスで共に暮らしていた陽花。結婚と同時に、スツールハウスを出た彼女は、夫が浮気をしているのではないか、そしてアリバイとして示した月下美人の花に何かトリックがあるのではないか? という……
夜に咲き、一晩で散ってしまう月下美人。その花の写真を撮っていた、というのは、夫が家にいた証拠。しかし、何らかのトリックで、長持ちさせられるのならば……。白石がそうだったように、多分、植物、花に詳しい人が見ればトリックそのものはすぐに見抜けるのだと思う。でも、そこからが秀逸。人見知りで、対人関係が苦手な白石と、常にスツールハウスの中心にいて、皆から好かれる存在だった陽花。あまりにもまぶしい存在である陽花に対する白石の感情。一方で、陽花のその性格の裏にあったもの……。多少、拗らせている、と言えばそうなのだろうけど、表裏一体の関係、苦い真相といったものの読みごたえは十分。
そんなスツールハウスの主と言われ、そこを出た後、作家として飛躍した鶴屋を主人公とした表題作。実は4編目で、鶴屋の秘密が一つ暴かれて、の後なのだけど、ここは謎解き、というよりも青春モノとしての側面が大きいように感じる。作家としてのスランプに陥った鶴屋が思い浮かべたのはスツールハウスで過ごした日々。ならばかつての面々ともう一度……。しかし、状況の変化で皆はもう戻らない。ある人物には、「何を言っているのだ」とすら言われてしまう。それでも、スツールハウスへ戻った彼女を待っていたもの……
これも設定としてはかなり強引だとは思う。けれども、楽しかった日々への憧憬。そして、見守ってくれた人の温かさ。そういうものが残る読後感が良かった。

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