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(書評)殺人鬼探偵の捏造美学

著者:御影瑛路



海岸で発見された怪死体。その足は切断され、顔の肉は剥がされていた。この事件は、世巻を騒がせている殺人鬼・マスカレードの仕業? 新米刑事の百合は、天才精神科医である氷鉤清廉と協力して捜査に当たることに。被害者である麗奈は、父親、恋人、婚約者、それぞれが異なる証言を異にする謎めいた女性。そして、死んだはずの麗奈の目撃証言まで現れる……
という風に書くと、普通のミステリのような印象なのだけど、実はこれが茶番である、ということは冒頭から判明している。
まず、精神科医である氷鉤こそが、実は殺人鬼・マスカレードであることは冒頭から明かされている。ただ、今回の被害者・麗奈が彼によって殺害されたのかどうかはよくわからない、という形で物語が開始される。
被害者の麗奈は、主人公である百合の学生時代の同級生でもある。当時から並外れた美貌を持ち、謎めいた雰囲気を持っていた女性。そして、彼女を慕う「蜜蜂」と呼ばれる親衛隊のような存在が周囲にいた。しかし、その「蜜蜂」の面々は現在、全員が行方不明。さらに、彼女の周辺にいる人々は、それぞれ、異なった印象を彼女に対して抱いている。それが意味するところは?
さらに言えば、氷鉤の捜査手法というのもなかなか面白い。「真実に意味などない」 そう言い放つ彼は、一応、理屈の上では言えるかもしれないが、市証拠も何もない状態での理屈で相手を打ち負かしていく。目的は、その時の反応を見るため。そして、その誘導によって露わになる新たな真実。ある意味、誘導尋問ともいえるのだけど、その手法というのが、精神科医という立場らしくてなるほど、という風に思えてならない。
そのようなやり取りの末、この事件の真相が明らかになって一件落着……と思ったら……
最後の最後で明らかになるタイトルの意味。そして、本当の真実……
ある意味では壮大な茶番劇。ある意味で、そこまで上手くいくのか? とも思う。けれども、その一筋縄ではないかない話の捻り方を堪能することが出来た。マスカレードを追う百合は、氷鉤の正体に気づくのか? どう考えても、彼女が一番、その正体に迫っているだけに、続編で、そこに気づけるのかどうか、というのが気になるところ。続編にも期待したい。

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