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(書評)読者と主人公と二人のこれから

著者:岬鷺宮



かつてやらかしてしまった経験から、周囲と距離を置いて過ごす細野晃。高校に入って最初のホームルーム。黒板の前に立ったのは、彼が最も愛する小説の主人公・トキコだった。彼女が愛する小説のヒロインのモデルだと知った晃は、物語の中のトキコと、現実の時子の間で揺れ動くようになっていって……
物語がどういうジャンルなのか、と言えば、青春もの、恋愛もの、ということになると思う。冒頭に書いたように、クラスメイトとなった少女・時子は、晃が最も愛する小説のヒロインのモデル。作中に出てきたことから、彼女の趣味とか、そういうものもある程度把握しており、あまりコミュニケーションが得意とは言えない彼女のフォローなどを頼まれることに。そんな中、だんだんと時子との距離を縮めていく晃だったが、現実の彼女と、小説の中のトキコとの間で悩むようになって……という、冒頭の粗筋のままの展開が綴られている。
勿論、恋愛ものとして、心情描写とか、そういうのの丁寧さも光っているのだけど、個人的には、題材の取り方とでもいうべきものが面白いな、と感じた。作者と読者、もっと言うなら有名人とファンとの関係、距離感とでもいうべきものの関係が面白い。
自分自身もそうだけど、好きな作家の作品というのはよく読む。それは小説に限らず、エッセイとかも読むし、場合によってはSNSなどで作者をフォローして、作者の発信する情報なんて言うのも受け取る。そうすると、「今、これにハマっています」とか、「こういうことに悩んでいます」なんていう情報を手にすることが出来る。それは、作品そのものについての情報だけでなく、作者(有名人)の趣味趣向、日常生活というものについても垣間見ることが出来る、ということ。そういうのを読みながら、「この人は、こういう人なのだ」ということを知り、親近感を持ったり、憧れを抱いたり、なんていう形で自分の中で消化していくことになる。勿論、一方的に。
そんな一方的に知っている相手が、自分の身近に現れたら?
そういう情報で、知っていることが多いからそれを元にして仲良くなることが出来る。困ったことがあればフォローすることも出来る。
でも、書籍などで語られている部分って、その人のすべてではない。表に出すことが出来ない部分も多いだろうし、考え方が違ってくることも多いだろう。その時……。
ここまで書いてきたのは、本人が直接に綴っている場合でのこと。まして、本作のヒロインである時子はモデルではあっても自分で書いたわけではないし、まして、数年前に綴られたもの。当然、ギャップもより大きくなる。そのような状態で晃は、そのギャップの中で……。
ある意味で、アイドルとファンの関係とか、そういうものにも繋がる話だと思う。ギャップに気づき、そして、いったんは距離を取ろうとする晃って、アイドルの(ある意味での)現実とかを知って距離を取ろうとするファンみたいなところあるし(笑) そういう部分をずっと考えてしまった。
ただ、こう書くと、ドロドロ系の話っぽく思えるのだけど、物語そのものは非常に透明感があって綺麗な話。距離を取った晃に、時子の想いを素直に伝える彼女の姉(時子をモデルとして小説を書いたのは、時子の姉) 晃の過去を知っていて、それでも彼を受け入れている仲間たち。そういう面々のフォローを受け、もう一度、時子と向かい合う晃っていう流れは、綺麗事、という風に思えなくもないが、それでも、いや、だからこそ「いいな」と感じられた。
なんか、書籍の感想というより、自分語りみたいになってしまったけど良い作品だよ、というのは最後に書いておこう。

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