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(書評)サーチライトと誘蛾灯

著者:櫻田智也



ホームレスを強制的に退去させた過去を持つ公園。その公園でボランティアの警備を担当する吉森は、テントを作ろうとする奇妙な男を発見する。その男・エリ沢は昆虫を捕まえようとしていただけだという。そんな翌日、公園で私立探偵の男が他殺体で発見され……
という表題作など全5編を収録した短編集。
物語の探偵役が昆虫好きで、昆虫の観察、採取などを趣味にしている、ということもあって、鳥飼否宇氏の猫田・鳶山シリーズのような、生物などに関する蘊蓄などをもとにした作品なのかな? と思ったら、そこまで深く突っ込んだ蘊蓄などはなく、多少、タイトルに関わっているかな? くらいの話だった。
例えば、冒頭に粗筋を書いた1編目の表題作。エリ沢は光を使った形でカブトムシを集めようとしていた。でも、カブトムシの習性などはあまり関係がなく、あくまでも光を使って昆虫を集める、という部分が影響しているだけ。ホームレスを除外して、人々を集めようとする公園。そして、そんな中で暮らそうとする存在。謎解き自体はちょっと無理矢理感も感じるが、作風がこういうものだ、というのは感じられる。
物語として面白かったのは3編目『ナナフシの夜』。前夜、バーで一緒に飲んでいた知人が殺害された。犯人として逮捕されたのは、その妻。精神的に不安定なところがある、と話をしていたが、昨夜、知人を迎えに来たときはそんな様子は感じられなかった。帰宅したあとに?
……ナナフシと言えば、木の枝などに擬態する昆虫。それと同じように、実は擬態していた存在が……。バーという場でのみ、会話をする知人という、相手のことを知っているようでよく知らない距離感。そして、ある意味で、大々的に報じられることのない地味な殺人事件。そんな舞台設定、犯罪の様子、というのがうまく生きていて、読み終わって上手いな、と素直に思った一編。
4編目の『火事と標本』。火災現場で発見された母子の遺体。母が殺害されていたことから、息子による無理心中の結果と判断されるが……遺された1愛の写真から……。加害者とみられる息子の味わった苦い過去。そんな息子を温かく迎えてくれた母親。そんな母子の悲しい最期が印象的。まぁ、法医学的にわからないものなのかな? という点は気になったが……
ちょっと最初に予想していた作風とは違ったのだけど、それぞれ、別の味わいがあるなど、バラエティに富んだ作風の短編集だった。

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