著者:酒井田寛太郎


海新高校ジャーナリズム研究会が不可解な事件に巻き込まれる短編集第2作。全3編を収録。
前巻もそうだったのだけど、やっぱり物語の雰囲気って瀬川コウ氏の『謎好き乙女』シリーズっぽいなぁ、という印象。今回は主人公である啓介の過去を巡る話が出てくるだけに余計にそれを感じるのかも。
1編目『耳なし芳一の夜』は、軽音部のボーカルとなった少女がストーカーに狙われる中、ライブをすることに。啓介らも、楽屋らを警備するのだが、部外者が入ることができないはずの楽屋でそのボーカルが何者かに襲われて……。この話、謎解きとしては、前提を素直に捕えれば容疑者は……ということで、そんなに難しい話ではない。むしろ、この話のキモは、その犯人の動機の方。同じ年齢、同じように頑張っている。でも、なぜ、あなただけが……。ある意味、色々と進路が変わったりとか、そういう部分での何が悪い、というわけではないが、しかし、という嫉妬心はただただ苦い。
ジャナ研に遊びによく来ているユリの姉に届いた手紙の真相を探る2編目『手紙』。姉は、不倫をしている? という疑惑を覚えるこのエピソードでは、その手紙の内容からこうではないか? という討論を重ねていく。それぞれの仮説について、それなりに筋が通っているように思えるが、しかし、それにしては……という部分が残る。その中で……
姉の秘密を暴いてしまったユリの心中。そして、そのような過去を抱えながらも、表の世界で羽ばたこうとするユリの姉の強かさ。悲劇というか、そういう方向とも一概に言えないからこその、苦々しい結末が印象的。
そして、啓介が過去に盗作だと暴いたのは間違いだ、というところから始まる3編目『キマイラの短い夢』。中学時代、クラスで行うことになっていた演劇。しかし、それは直前になって中止になってしまった。そして、その理由は、クラスメイトで、脚本家として神童と言われた島崎祐樹が手掛けた脚本に盗作があった、という理由。それを突き付けたのは、かつての啓介。そのことで、祐樹は、自傷行為にまで走ったという……
盗作がバレたとき、「そんなわけがない」と一笑に付した祐樹。しかし……。さらに、当時は気にも留めなかったが、ゲストに盗作された側の作家が来ている中、盗作をするものなのか? しかも、絶対に言い逃れできないような一言一句違わぬ引用。それはあまりにも不用意。そして、「YUKI S」という執筆名義の意味するものは?
ある意味では、1編目の動機とも共通するものがある。そして、その中で一応の真相にはたどり着いたものの、最早、どうしようもなくなってしまっていた……。それは祐樹も、啓介も……
全体を通して謎解きそのものはそれほど難しいものではない。でも、その真相を暴くことにより、苦い結末へ……という、そのカラーがより強まったように思う。
No.4621

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当記事は、「新・たこの感想文」に掲載するために作成したものです。
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1編目『耳なし芳一の夜』は、軽音部のボーカルとなった少女がストーカーに狙われる中、ライブをすることに。啓介らも、楽屋らを警備するのだが、部外者が入ることができないはずの楽屋でそのボーカルが何者かに襲われて……。この話、謎解きとしては、前提を素直に捕えれば容疑者は……ということで、そんなに難しい話ではない。むしろ、この話のキモは、その犯人の動機の方。同じ年齢、同じように頑張っている。でも、なぜ、あなただけが……。ある意味、色々と進路が変わったりとか、そういう部分での何が悪い、というわけではないが、しかし、という嫉妬心はただただ苦い。
ジャナ研に遊びによく来ているユリの姉に届いた手紙の真相を探る2編目『手紙』。姉は、不倫をしている? という疑惑を覚えるこのエピソードでは、その手紙の内容からこうではないか? という討論を重ねていく。それぞれの仮説について、それなりに筋が通っているように思えるが、しかし、それにしては……という部分が残る。その中で……
姉の秘密を暴いてしまったユリの心中。そして、そのような過去を抱えながらも、表の世界で羽ばたこうとするユリの姉の強かさ。悲劇というか、そういう方向とも一概に言えないからこその、苦々しい結末が印象的。
そして、啓介が過去に盗作だと暴いたのは間違いだ、というところから始まる3編目『キマイラの短い夢』。中学時代、クラスで行うことになっていた演劇。しかし、それは直前になって中止になってしまった。そして、その理由は、クラスメイトで、脚本家として神童と言われた島崎祐樹が手掛けた脚本に盗作があった、という理由。それを突き付けたのは、かつての啓介。そのことで、祐樹は、自傷行為にまで走ったという……
盗作がバレたとき、「そんなわけがない」と一笑に付した祐樹。しかし……。さらに、当時は気にも留めなかったが、ゲストに盗作された側の作家が来ている中、盗作をするものなのか? しかも、絶対に言い逃れできないような一言一句違わぬ引用。それはあまりにも不用意。そして、「YUKI S」という執筆名義の意味するものは?
ある意味では、1編目の動機とも共通するものがある。そして、その中で一応の真相にはたどり着いたものの、最早、どうしようもなくなってしまっていた……。それは祐樹も、啓介も……
全体を通して謎解きそのものはそれほど難しいものではない。でも、その真相を暴くことにより、苦い結末へ……という、そのカラーがより強まったように思う。
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