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(書評)毎年、記憶を失う彼女の救い方

著者:望月拓海



20歳の冬、私は交通事故により両親を失った。それ以降、私の記憶は1年ごとに消え、事故直後へと戻ってしまう。空白の3年間を抱えた私の前に現れたのは天津真人という男。彼は、「1か月デートをして僕の正体がわかったら君の勝ち。わからなかったら、僕の勝ち」と賭けを持ち掛けてきて……
第54回メフィスト賞受賞作。
「すべての伏線が、愛」
これは文庫の帯に書かれている言葉なのだけど、なるほど、という感じ。
言い方は悪いのだけど、ある意味、すごく流行に乗ったような作風。記憶障害を抱え、毎年、記憶がリセットされてしまう主人公の千鳥。そんな彼女の前に現れたのは、胡散臭い青年・真人。そもそも、この人は誰なのか? それすらわからない。けれども、不思議と嫌悪感があるわけではない。そして、挑発のような形での賭けに乗り、真人とデートを重ねるうちにだんだんと彼に惹かれていく。そんなとき、千鳥が知ったのは、彼が有名な作家であること。しかし、ここ数年間、全く新作が出せずにいることも……。もしかして……真人に対する疑惑を覚えたりもする中で……
メフィスト賞作品らしく、「天津真人とは何者なのか?」「千鳥との関係とは?」という謎が物語が引っ張る。その中で、上に書いたように、お約束ともいえる真人に対する疑惑なども噴出するのだが……
一応の真人との関係性も明らかになってからの急展開。真人が抱えている問題。そんな中で、真人の真意を知って……
出会ってからの真人が、千鳥にとって救いになっていたように、真人にとっても千鳥が大きな救いになっていた。そして、そのことが、真人の行動のすべてに繋がっていた。そして、そのことが再び……
こうやって考えてみると、このタイトルもうまいな、と思えてならない。「治し方」ではなく、「救い方」。そう、決して、千鳥の記憶障害が治るわけではない。けれども、そんな障害を抱えながらも、真人という救いを得る、ということになる。
真人とはいったい何者なのか? という謎をもって読者を引っ張り、そして、最終的に、真人の、そして、千鳥の両者に対する想いへと昇華する。本当、最後はストレートな、両者の相手への想いをぶち込まれた、という感じだったし。
個人的に、あまり読まないジャンルの作品ではあるのだけど、そんな私も、良い話だったな、と素直に思えた。

No.4622

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